31. 耳が1コで聞こえる
音速(1秒間に音の進むスピード)はどれくらいかご存じですか? 気温や媒体(空気、水など音を伝える物質)により異なりますが、空気中で1気圧、気温摂氏0度のときの音速は331m/秒です。子供の時にこれを覚えるのに表題のような「耳が1コ(331)で聞こえる」という風に習いました。1秒間に331mとは、ずいぶん早いと思われるかもしれませんが、光に比べると遅いものです。たとえば花火や雷では、ピカッと光ってから数秒後に音が聞こえます。音速は目で見ることもできます。上空を飛んでいるジェット機をみたことがあると思いますが、ジェット機のスピードはだいたいマッハ(音速)0.8くらいですから、音速はそのスピードより少し速いくらいだとイメージできます。

 大きなホール(とくに縦長のホール)でのアニバで、コールにあわせて踊っているつもりでも、前の方と後ろの方ではダンサーの動きに若干のズレがあると思います(コーラーさん、いかがですか?)。スクエアダンスでは判りにくいかもしれませんが、野球場を使ったロックコンサートなどの中継をみていますと、観客の手拍子が実際の音とずれているのを見たことがある人は多いと思います。

 ここで耳の構造についてお話ししましょう。耳の穴(外耳道といいます)の奥には鼓膜が張られていることは皆さんご存じだと思います。その奥は中耳という部分ですが、ここに3つの小さな骨があります(耳小骨といいます)。小さいですが、それぞれの骨は関節でくっついており、鼓膜に届いた音の振動を中耳の奥にある内耳という部分に伝える働きをしています。耳小骨の働きは単に音を伝えるだけでなく、音を増幅する作用を持っています。だいたい10倍から20倍くらいに増幅するそうです。年をとると関節が硬くなりますが、それと同じで耳小骨の動きも悪くなり、耳が遠くなると言われています。

 スクエアダンスではコーラーのコールを聞かなければダンスが出来ません。耳が遠くなればコールが聞こえにくくなりますから、聞こえにくい人にとっては不利になるかもしれません。最近千代田スクエアダンスクラブでは高性能ポータブルラジオでコールを飛ばして、直接ダンサーがそれを聞くことが出来る装置が活躍しています。コールが聞きにくい人は是非このラジオを使ってみましょう。えっ、コールは聞こえてるけどうまく踊れないって? これについては躍り込みしかないようですね。
32. ギックリ腰
我がクラブの広報担当の浅尾さんが最近ギックリ腰になられました。カルガモチャットを聞いていますと、コーラーのGさん、ダンサーのAさん(私ではありませんよ)など、皆さん結構腰を痛めておられる方が多いようですね。ギックリ腰とはいったいどういうものでしょうか。

医学的には、腰椎ヘルニア(腰椎の骨と骨との間のディスクといわれる軟骨がずれて、そばにある神経を圧迫する)、腰椎すべり症(腰椎の骨が一部ずれて、その骨により神経が圧迫される)などが主な原因とされています。そもそも人類が四つ足から二足歩行を開始したことがすべての原因であるとされています。ちなみに動物には腰痛はないそうです。このような原因で引き起こされた腰痛に対しては、手術以外には牽引とかコルセットしかありません。

 それ以外の腰痛の原因として、最近注目されているものに、「骨盤輪不安定症候群」といわれている病気があります。骨盤を形成する骨は、一見ひとつにみえますが、じつは3つの骨から出来ています(左右の腸骨と仙骨)。
それぞれの間には、あまり動きませんが関節があります。老化によって関節が疲労を起こし、身体の重量により関節に負荷がかかるとその部分が開いたようになり痛みを覚えることになります。この痛みは腰椎の痛みと違って、腰骨(こしぼね、というよりお尻の部分)から足にかけて痛みが走るような感覚が中心で、ヘルニアのように激烈な痛みで動きが取れないといった痛みと少しニュアンスが違うようです。このような場合は、骨盤をしっかりと締め付ける「骨盤支持ベルト」が有効です。

 どちらが原因だとしても、腰痛は予防が肝心です。二本足で歩行している限りは、程度の差はあれ、年齢とともに誰にでも起こる可能性がありますので用心に越したことはありません。
まず筋力をつけることが大切です。腰の筋力をアップすることで、適度な運動をコンスタントに行うことが重要です。

次にこれが結構重要なのですが、ものを持ち上げたり、身体をねじったりするときに、急な動きを控えることです。若い頃のようについついひょいと持ち上げられるように思って力を入れてみると、意外に重かったときなどにヘルニアや、すべり症が発生します。具体的には、屈んでものを持ち上げるときに、上半身を折り曲げないで、お相撲さんが四股を踏むような格好で腰を落と(背中は出来るだけ曲げない)、それからその姿勢のままで曲げた足を伸ばすという方法で持ち上げることです。

格好は悪いのですが、これが一番腰に対する負担が少ないとされています。あと、身体を少しねじればものが取れそうと言うときでも、無理をしないで身体をその場所まで動かしてからそのものをとるという習慣をつけてください。急な身体のねじれも腰痛のもとです(五十肩のもとでもあります)。

 ともかく、老化に伴う筋力の低下が原因ですから、適度な運動をコンスタントに続けましょう。スクエアダンスやラウンドダンスは無理なく身体を動かしますし、イヤになったからと言っても途中で止めるわけには行きません。運動自身はそれほど過激ではありませんので、腰痛防止には最適だと思います。
33. リズムとは?
 ダンスでは音楽に合わせて身体を動かします。スクエアダンスでは2拍子(1, 2,1, 2・・・というリズムです)、ラウンドダンスのワルツでは3拍子(1, 2, 3, 1,2, 3,・・・)で踊ります。ちなみに、英語では拍子のことをmusical timeといいます。2拍子(正確には2分の2拍子)はsimple duple time、3拍子(正確には4分の3拍子)はthree-four time、8分の6拍子はsix-eight timeといいます。リズムをはっきりと掴んでいないとダンスのタイミングがずれ、パートナーと息が合わないことになります。スクエアダンスは社交ダンスやラウンドダンスのように、動きそのものにこだわる(スタイルを重視する)ことは余りありませんが、コールとあまりにずれると見苦しいだけでなく、他の人とぶつかったり思わぬトラブルを招くもととなります。

 これはダンサーだけではなく、コーラーにも当てはまります。バックの曲とタイミングを合わせてコールを掛けてくれると、ダンサーも聞き取りやすいですし、動きもスムースとなりますが、リズムに乗り遅れたコールはタイミングがつかめず踊りにくくなるようです。音楽がなくて、コールだけで踊らなければならないときもタイミングが掴みにくくなります。例会で難しいコールの練習のときなどに、音楽なしでコールがかかることがあります。その練習時はコール通りに身体が動きますが(ゆっくりと判りやすく指示してくれるから)、動きそのものはかなりぎくしゃくしたものとなり、隣のセットと比べると動作のタイミングが全くずれていることにお気づきだと思います。

 リズムを刻んでいる楽器の中心は、打楽器(ドラム、シンバルなど)ですが、楽器の中でもっとも歴史があるものとして知られています。古代からわれわれの祖先は太鼓などの打楽器をたたいてリズムを刻み、仕事に、遊びに利用していたようです。最も原始的なリズムは2拍子であると考えられています(ワルツの3拍子は、かなり後で発生したといわれています)。

 2拍子で太鼓をたたくということを考えついた理由は、ひとつは2本足歩行をすること(足踏みは自然に2拍子になります)ですが、もうひとつは心拍動によると考えられています。聴診器で心音を聞いたことがある方もおられると思いますが、心音はドキッ、ドキッ、・・・と2拍子で聞こえます(正確には、ドキッ、のあとに1拍のお休みがありますので、3拍子です。それに気付いて3拍子が生まれたと考えられています)。

 赤ちゃんはお母さんのお腹でお母さんの心臓の動きを絶えず感じています。羊水の中に浮かんでおり、子宮、腹壁に守られていますので、外の音はそれほど聞こえていません。もっぱら母体の心音を聞いていますから、生まれてからしばらくの間はその音に敏感に反応します。ぐずっている赤ちゃんにお母さんの心音に手を加えたリズム音を聞かせると泣き止むということはお聞きになったことがあるでしょう。スクエアダンスは掴みやすい2拍子の快適なリズムで、コーラーさんからのタイミングのよいコールにあわせて踊りますが、原始時代から綿々と受け継がれているリズム遺伝子が適度の刺激を受け、赤ちゃんの時代を思い出して病みつきになってしまうのかもしれませんね。

34. 調性と音階
 最近のカラオケは簡単にキーを変えることが出来ます。ある歌を唄おうとしてその曲のイントロを聴いたところ、そのキーでは自分の声では唄えないと判ったときは、直ちにキーの調節が可能です。一昔前はレコードのスピードを変えることでキーを変えていましたが、これだとテンポが変わってしまいます。最近の技術の進歩で、テンポを変えることなくキーを動かすことが可能になりました。

 音楽用語ではキーのことを調性といいます。ハ長調とかト長調といえばお判りになると思います。耳に聞いて馴染んでしまうと、調性が変わっていてもそれほど気になることはないと思いますが天才音楽家と呼ばれる人たちは、かなりのこだわりを持っていたようです。たとえば、モーツアルトはハ長調、ト長調、イ長調などシャープが付く調性の曲が多く、ショパンは変イ長調、変ホ長調などフラット系が多いようです。

 現在、規準となる音はピアノの真ん中あたりの「ラ」の音で、440ヘルツと定められていますが、演奏家(あるいは交響楽団)によってはこの音を442〜4ヘルツに上げて調律することがあります。その方が音の響きがよくなり、輝かしくなるといわれています。

 スクエアダンスではレコードの調性はコーラーさんの音域に合わされていると思いますが、少し高めのキーでコールされると、ダンサーも聴き取りやすくなりますし、ダンスのノリも良くなるのではと思います。ちなみに人気のあるコーラーさんは皆さん声が高いと思いますが、どうでしょうか。ダンサーもハンズアップでキビキビと踊ることにより、姿勢もよくなり健康にもよいと思いますが如何でしょうか。


35. 視覚(四角)とダンス
 スクエアダンスでは自分の最初の位置(ホーム)が大切となります。自分が何番目の場所(ポジション)にいるのか、ヘッドなのかサイドなのか、これらをきちんと理解し、覚えておかないと、「もとの位置に戻って下さい」とコーラーが言ったときに戻れなくなってしまいます。またコーラーによっては、「自分の最初のポジション番号と同じ回数(たとえば3組にいた場合は3回)、スクエアスルーをしなさい」というようなコールを掛けることがありますので、油断大敵です。自分がどのポジションにいるかを把握するのに活躍するのは視覚です。当たり前のようですが、ボーっとして見ているのと、まわりの状況から自分の位置、周辺との関係を把握する(空間認識といいます)のとでは大違いです。スクエアダンスの上手い人は空間認識能をフルに活用しており、どのポジションにいてもまわりと自分との位置関係を理解しておられるようです。

 忘年ダンスパーティーで会長が袋をかぶって(目隠しをして)コールされたのを皆さん覚えておられるでしょう。簡単なコールから始まって、最後はかなり難しいコールまでされ、しかも完全にゲットアウトしましたのでびっくりいたしました。ベテランコーラーはダンサーの位置、動きを完全に把握し、サイトコール(ダンサーの位置を見てその場で瞬時にコールを考える)をされますが、視覚を遮断してもそれが可能だということが判り、仰天しました。忘年パーティーではダンサーも袋をかぶってダンスしましたが、これはなかなかうまく行きませんでしたね。ひとりだけ袋をかぶったのですが、他の7人でカバーしないとなかなか正しい方向を向くことが出来ませんでした。やはりダンサーは自分の位置をしっかり把握し、相手ともアイコンタクトしながら(しかも相手に見とれることなく)ダンスをしなければならないのでしょうね。

 ところでスクエアダンスはなぜ四角なのでしょうか。トライアングル(三角形)あるいはペンタゴン(五角形)ではないのでしょうか。人間は(というより動物は)地上で生活をする場合、地面(水平)に対して自分の位置(垂直)を意識しますので、直角がいちばん安定な位置となります。皆さんまっすぐに立っておられますが、これはまさしく地面に対して直角の位置です。建築物、クルマ、家電製品など、デザイン上の弯曲はあるものの、基本は四角い箱(立方体)です。ですからスクエアダンスがフォークダンスから発展してきたとき、最初は円周を動く(ラウンド)動作が主体であったと思われますが、コールに反応して動く際に、自然に四角になっていったのではないでしょうか。

 最近、6セット12人で踊る、ヘキサゴンダンスが上級者のレベルでは行われています。最初はヘッド2組、サイド1組の長方形でしたが、その内、完全な六角形で踊るようになりました。なかなか面白いですが、慣れないと大変で、スクエアの時の様に「何となく」という感覚では動けません(60度、120度という感覚が必要となります)。遊びでは(スクエアダンスも遊びですが)面白いかもしれませんが、やはり普通のダンサーにとっては四角の方が落ち着きますね。

36. 国際交流と健康
 千代田スクエアダンスクラブも大所帯となり、外国の方々の会員も増えてきました。ルビカさんはスロバキアから来ておられましたが、母国にお帰りになった今でも、日本の要人がスロバキアを訪問した際の通訳として活躍されている姿をテレビで拝見することがあります。外国の知り合い(普通の人はそれほど多く外国人の知り合いはいません)が、母国と日本の架け橋として活躍していることは大変嬉しいことだと思います。

 今年はメキシコから高根ヴィクトルさんが入会され、国際交流に一役買っています。彼は小生の紹介ですので、少し彼のことをお話しいたします。なかなか濃い顔をしていますが、遺伝子的には生粋の日本人です。お父様がメキシコの日系二世で、お母様は日本からお嫁に行かれました。スペイン語、英語、日本語(少しあやしい?)のバイリンガルならぬトリリンガルです。メキシコ国立大学医学部を卒業され、医師として研修の後、東大の大学院に留学して、現在勉強中です。小生の勤務している病院に時々研究のために来ておりましたので、スクエアダンスのことをお話ししましたら興味を示し、入会することとなりました。奥様の美穂さんは奈良のご出身で、ヴィクトルの大学院での研究が終了したら(2〜3年後)メキシコに帰ることになっています。お二人とも、東京では限られた友人しかいなかったとのことですが、千代田スクエアダンスクラブに入会して多くの会員の方々と知り合いになれたことを喜んでいます。

 スクエアダンスは世界共通語ですから、外国の方が千代田に来ても、逆に私たちが外国に行っても、すぐにダンスに参加でき、親睦を深めることが可能です。例会に時々外国のお客様がお見えになりますが、チャンスがあればそのお客様と出来るだけお話しすることをお勧めいたします。スクエアダンスは運動面のみが健康に寄与するのではなく、見知らぬ人とのふれあいが精神面での健康を増進します。いつもお話ししている仲間と違う人と話し合うことは、軽いストレスといえますが(とくに外国人の場合)、身振り手振りでコミュニケーションをはかることは、アタマのすべての部分をフル活用することになりますので、よい刺激となります。これはお客様も同じで、なれない土地で聞き慣れない言葉で話しかけられ、それでもなんとかコミュニケーションを取り、ダンスをすることによって、その国の印象が深いものになります。

 高根さんご夫妻が、何年かあとメキシコに戻られて、「メヒコ・スクエアダンスクラブ」(メキシコシティーには現在のところスクエアダンスクラブはないようです)を結成され、私たちが何かの折りにそのクラブを訪問するなんてことを考えると、楽しくなってきますね。

37. 事故はなぜおこる?
 医療の世界では、最近になって数多くの事故が報告されるようになりました。これは情報公開という意識が進んだためで、昔は事故が少なかったというわけではありません。マスコミ、インターネットの普及で、多くの患者さんは自分の病気についての情報を入手可能ですから、私たち医師も毎日勉強して、新しい医学情報を吸収しておく必要があります。日本社会では、既得権益は手厚く保護されています。運転免許ですら3〜5年で更新させられるのに、医師免許は一度取ってしまうと、よほどとんでもないことをしない限り一生保護されます。アメリカでは厳しい再教育制度があり、学会などで主催する決められた勉強会に参加しなければ、医師の資格は剥奪されてしまいます。そのため、アメリカの学会はどこも大規模で、3〜5日間で30〜40の講習会を組んでおり、どの会場も満員で大盛況です。日本でもアメリカの制度をまねて、日本医師会などが研修を呼びかけてはいますが、義務ではありませんし、罰則もありません。これでは勉強しない医師は、極端な場合、自分が医学部の学生だった時代の知識しか持ち合わせていないことになります。

 残念ながら患者さんの多くは、自分がかかっている医師がきちんと勉強を続けているかどうかを知るすべはありません。やはり重大な病気にかかった場合は、かかりつけ医にイヤな顔をされても紹介状をもらってセカンドオピニオンを受けた方がよさそうです。最近はインターネットなどでそれぞれの病院の診療内容がよく判るようになりましたから、それを参考にしてもよいと思います。

 さて本題に戻りますが、どうして事故は起きるのでしょうか。人間ですから、誰だって間違えることはあります。だから、もし間違ったらどうするということを常日頃から考えておくことが事故を防ぐ決めてとなります。失敗をするかもしれない、もし失敗したら次はこの方法で対処しよう、それでもダメならあの道具を使う方法もあるぞ、などのメンタルトレーニングは、医師に限らず危機管理に携わっている人間にとってとても大切なことだと思います。間違いなど起こすはずはないといった傲慢な姿勢は、そのこと自体が事故を呼ぶもととなります。

 スクエアダンスは遊びですから、間違えても事故にはなりません。でも間違えずに済んだ方がいいに決まっています。危機管理というと大げさですが、間違わないようにするコツは、日頃から反復練習すること、もし間違ったときのリカバーの方法を考えること(たとえば「スイングスルー」を「スイングする」と間違えた場合は、直ちに組んだ腕をふりほどいてその位置に移動する)、最悪の場合、なんとかセットを作り直してダンスを継続する(隣のセットをみるのも参考になるかも)などでしょうか。でも趣味のダンスですから、最後はゴメンで済んでしまうのが(競技性がないところ)スクエアダンスのいいところです。ゴメンで済むことは世の中あまりありませんが、忙しい会員さん(小生のその端くれですが)にとっては絶好の息抜きの場となっているのだと思います(だから間違えても大目にみてくださいといっているわけではありませんよ)。


38. 思い出よ、いつまでも アルツハイマーは予防可能か?
 アメリカのレーガン元大統領が先日亡くなられました。彼は引退後に自分が アルツハイマー病であることを公開し、隠遁生活を送っていました。お葬式の映像が公開されましたが、その中でナンシー夫人が本当に愛おしそうに棺をなでて、何かを語りかけておられる姿に心を打たれました。元大統領夫人ですから、多くの援助があったと思いますが、それでも大変な介護であったと思います。アルツハイマー病は、記憶が徐々に障害され、最終的には語りかけても答えられない、いわゆる植物状態になってしまう病気です。すぐに死んでしまう病気ではありませんが、今まで判っていた相手の名前、子供の名前、ついには自分の名前までが判らなくなってしまい、最後は言葉さえも忘れてしまうという悲惨な病気です。大脳は一度病気に冒されると再生することがありませんので、なってしまった患者さんを直す方法はありません。そのため、予防が第一となります。

 高血圧、糖尿病、骨粗鬆症といった成人病に対しては、最近では多くの新しい薬剤が開発され、それ以上病気を進めないようにするという予防が可能となりましたが、アルツハイマー病、癌など、まだ有効と考えられる予防薬がない病気もあります。

 記憶のメカニズムの項目でお話ししましたが、ものを覚える、思い出すという仕組みは、大脳のあちらこちらの部分どうしが神経ネットワークで情報を交換し合うということで成り立っているようです。従ってネットワークをいつも動かすようにする(家に閉じこもってばかりいないで、活発にいろいろな刺激を脳に与える)ということが記憶を減退させない秘訣となります。年を取ってくると、1日あたり何万という神経ネットワークが消失していくといわれていますが、新しいことを覚えるという作業で、別のネットワークが新たに構成されていきますので、常に好奇心を持ち、脳に刺激を与えることは大脳生理学的に極めてよいことだと思われます。もちろんアルツハイマー病はこのネットワークが病的に破壊されていく病気ですので、アタマを使えば予防できるというものではありませんが、常に新しいものを覚えていこうという生活習慣をつけることは、いわゆる普通の「老人ボケ」には有効だと思います。

 ストレスを取ること、いつも身体を動かすこと、ぼけないようにアタマを使う習慣をつけることがすべての病気の予防に大切であるとされていますが、スクエアダンスはそのすべてに当てはまる理想的なスポーツですから、身体と心の健康のため、なるべく例会はサボらないように頑張って出席しましょう。

39. セカンドオピニオン
 最近よく耳にする言葉に、セカンドオピニオンがあります。何かの病気になったときに、本当にその診断があっているか、治療法は他にないのかなどを別の医師に聞いてみることです。簡単な病気なら自然に治ってしまいますので、セカンドオピニオン の必要はありませんが、深刻な病気や、なかなか治らない場合は、今かかっている医 師に遠慮することなくセカンドオピニオンのための紹介状を書いてもらいましょう。 良心的な医師ほど、患者さんのそのような要求に対してはイヤな顔をしないものです。

 医学の領域は細分化されていますので、すべての領域でトップレベルの診療を行う ことは、はっきり言って不可能となっています。どの医師も、自分の得意とする分野、 不得意の分野があり、よく勉強している医師ほど患者離れがいい傾向にあります。す なわち、医学の進歩を自覚している医師は、自分ではよく判らない患者さんを診たと き、「この症状から考えると、この病気が疑わしい、それならどこそこ病院のだれだれ先生に紹介すれば患者さんのためになる医療ができるだろう」と考える訳です。不勉強な医師ほど、患者さんを抱え込む、なんでも自分一人で解決しようとする、結果 として患者さんに不利益をもたらす、ということになってしまいます。

 ドクター・コトー(孤島の診療所で働く医師を主人公にしたドラマ)のような立場 におかれた場合は別ですが、首都圏では数多くの病院があり、その中には日本を代表 するような大病院もあるわけですから、上手に利用しましょう。直接受診してももち ろん大丈夫ですが、できればかかりつけの先生に紹介状を書いてもらった方がよいで しょう。

 スクエアダンスの世界でも、たまには他のクラブに出かけて、そのクラブのコーラー さんのコールで踊ることはよい刺激となります。魅力的なコーラーとの出会いがある かもしれませんし、そうでなくても千代田のコーラーさんの素晴らしさを再確認でき るかもしれませんよ。


40. 薬を上手に利用しましょう
 自然が一番という考え方があります。ある面ではその通りだと思いますが、病気に なったときはそうもいきません。最近の病気に対する考え方は、病気の治療も大事で あるが、ならないようにする予防の方がもっと大切であるという風に変わってきてい ます(予防医学)。高血圧を例に取ると、塩辛い食事は身体によくないので、塩分を 控えた食事を心掛けましょう、というものです。

 もちろん基本は生活習慣を変えることですが、これはなかなか困難を伴います。そ こで、最近はいわゆる「生活習慣病」に対する薬剤が数多く開発されています。味気 ない食事をして、80歳まで生きてもしょうがないとお考えでしたら、薬を上手に利用 することです。以前にも書きましたが、医学的介入がなされなければ、人間の寿命は 約50年といわれています。現在の平均寿命は約80歳ですから、このおまけの30年は現 代医学がもたらしてくれた恩恵であるといえましょう。もちろん寝たきりではなく、 元気な80代を迎えなければ意味はありません。そこで50〜60歳代からの長期的なビジョ ンに立った医学的介入が必要となるわけです。

 どういうわけか、サプリメント、健康食品などはみなさんよく召し上がっているよ うですが、薬を飲むというと、自然に反する、副作用が怖いなどの理由で拒否反応を 示される患者さんが多いようです。ここだけの話(オーシャンウェーブの発行部数を 考えれば、そうもいきませんが)、健康食品の多くは、医学的な根拠に乏しいもので、 宣伝で言っているような効果はあまり期待できません。サプリメントも日本人の場合、 通常のきちんとした日本食を食べていれば必要ではありません。はっきり言えば、ハ ンバーガーやポテトフライが主食で、野菜をほとんど食べないアメリカ人向けに開発 された製品です。それよりも安全で有効なのは、高血圧、高脂血症、骨粗鬆症などに 対して開発された新しい薬です。もちろん、きちんとした医師の管理の元で処方され なければなりませんが、そうして処方されている場合は副作用のことも心配ないと思 います。

 癌についてはまだ根本的な病因が判っていませんので、検診を受けて早期発見に努 めるしかありませんが、高血圧、高脂血症、骨粗鬆症などの生活習慣病は、今のうち から薬を上手に利用して予防しておいた方がよいでしょう。患者さんによっては、あ まりたくさんのお薬をもらっても飲みたくないという方がおられるかもしれませんが、 必要なものを必要なだけ飲むということは、予防医学的な立場からは大切なことだと 思います。

 スクエアダンスで適度な運動とアタマの体操をし、その後うまいビールを飲み、ス トレスを発散すれば、そして上手に薬を利用すれば、千代田のメンバーは、みなさん 軽く80歳以上の健康な壮年(老年ではない)になれますよ。

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