10、遺伝子をめぐる話題
最近、新聞を開けば、必ずと言っていいほど遺伝子とかDNAという言葉を見かけます。その他、クローン人間などSFの世界でしかなかったことが現実に可能となりつつあるようです。少し前に、ジュラシックパークという映画が上映され、話題になりました。恐竜の遺伝子を元にして、クローン技術で現在に恐竜を復活させるというお話でしたが、あながち映画の世界だけとは言えなくなってきました。ドリーという名前のクローン羊のことは覚えておられるでしょうか。母親の細胞を取り出し、そのDNAを他のヒツジの受精卵に注入して母親と全く同じ遺伝子を持つヒツジを誕生させたというニュースは世界中を驚かせました。同じ技術を使えば人間にも応用可能です。自分の細胞を残しておけば、将来クローン人間として復活可能な時代になりそうです(もっとも記憶はコピーできませんので、見かけは本人そっくりでも成人すれば全く別の人間になってしまいます)。

クローン人間は環境が異なるため、本人と全く同じとは言えませんが、やはり遺伝子に由来する性質などは似たものとなることが予想されます。ある種の遺伝子を持つ人は、特定の病気に将来かかることが予想されると言ったことから、アメリカでは生命保険の加入時に遺伝子診断を義務付けている会社もあるそうです。

ではスクエアダンスと遺伝子はどのような関係があるでしょうか。ダンスが上手くなる遺伝子はあるのでしょうか。残念ながら現在のところ、そこまで遺伝子の研究は進んでいません。ただ、ある程度の遺伝形質(素質と言ったほうが判りやすいかもしれません)は受け継がれることは昔からよく知られています。スポーツの選手のジュニア(若・貴兄弟など)を想像していただければお判りになると思います。プロのスポーツとスクエアダンスとの決定的な違いは、プロスポーツでは素質だけではダメで(長嶋ジュニアなど)、天性のセンスが必要であるのに対して、スクエアダンスはだれでも楽しめるというところではないでしょうか。


11、男と女
男と女の違いはどこにあるのでしょうか。もちろん外見は違っています。服装、言葉遣い、体型など数え上げればキリがありません。では医学的にみればどうでしょうか。乳房や生殖器は男女で異なっていますが、それ以外ではどうでしょう。少し難しくなるかもしれませんが、脳の中のものを考えるシステムの一部が男女で異なっているといわれています。一言で言えば、男性は物事を理知的に捕らえ、女性は物事を直感的に捕らえると言うことです。スクエアダンスにあてはめると、新しいフィギュアを教えてもらうとき、男性はそのコールの成り立ち、良く似たコールとの違いなどに注目し、ひとつひとつの動作を分解して理解しようとしますが、女性は感性でコールを捉えてそのまま理解してしまうことが多いということです。もちろん個人差がありますので、みんなにあてはまるというものではありませんが、思い当たるフシがある人はいらっしゃると思います。別に男女どちらが優れているということではありませんが、一般的に男性は理屈っぽく、女性は素直といえるかもしれません。難しいフィギュアになればなるほど、この違いは顕著になります。メインストリームでも、少しひねったT-bone formationでは動きが複雑になります。個人的な話で恐縮ですが、以前このT-bone でのサーキュレートで家内とディスカッションしたことがあり、そのとき、彼女は直感的に動きを理解したのに対し、小生はなかなか理解できず、最終的にテキストを何回も見なおして、やっと判ったという経験があります。

男女平等で、どんな仕事も差別してはいけないという時代ですが、男女の特性を考えれば、自ずとそれぞれに向く職業、向ない職業があると思います。さしずめ理論的にダンスを組み立てるコーラーは男性向き、曲の流れでキューを決めるキュアーは女性向きと個人的には思いますが、いかがでしょうか。当然個人差がありますので、その逆もまた真なりと言ったところでしょうか.


12、右脳、左脳
当たり前のことですが、男性も女性も左右両方の脳を活用しています。右利きの人は大脳の左半球が、左利きの人は右半球がそれぞれ優位側となります。つまり、右利きの人は主に左の脳で物事を考え、判断しているということになります。脳出血、脳梗塞などで左脳の障害を受けた時、右利きの人は障害の場所によってはしゃべれなくなったり、相手の言っていることが判らなくなったりします(失語症といいます)。それでは右脳はどのような役割を持っているのでしょうか。

一般的には左脳は理性的判断、右脳は直感的判断を司っているといわれています。試験勉強などで知識を詰め込んでいる時は左脳が活躍しますが、絵を描いたり文章を書いたりと言った創造的なことをしている時は右脳が働いているといわれています。将棋の羽生名人は皆さんよくご存知だと思いますが、普通の棋士は次の一手をどうするかなどを左脳で考えるのに対して、彼は主に右脳が活発に働いているといわれています。羽生名人は普通の人が思いもつかない指手を指すといわれているようですが、これも右脳で新しいことを考えつくためかもしれません。

右脳が活発に働いている時、脳波をとるとアルファ波といわれる成分が出ています。アルファ波は精神的にリラックスした時に出やすいといわれており、アルファ波を出すことは健康のためにもよいこととされています。スクエアダンスでは、最初の講習などで新しいことを覚える時は左脳が働いていますが、すっかり自分のものにして流れるようにミス無く踊っている時は右脳が働き、アルファ波が出ていると考えられます。コーラーが難しいコールをかけてきても、慣れてくるとあまり考えることなく自然に身体が動き、しかもそれが音楽に乗って流れるようにスムースに踊れている時は、アルファ波がビンビン出て、身体は動き回っているのに心はリラックスしているという不思議な感覚を覚えるようになれば、より一層スクエアダンスにのめり込むことになりそうです。だれかがつまらない間違いをしてセットを壊されると不愉快に思うことがありますが、それはせっかく快調にアルファ波が出ていたのにそれを中断させられることが一因かもしれませんね。


13、ホルモンと若返り
ホルモン補充療法という言葉を聞いたことがありますか? 最近わが国でも主に女性の更年期障害の治療にホルモン補充療法が行われるようになってきました。これはわが国が世界一の長寿社会になったことと無縁ではありません。一昔(いや二昔以上?)前は、50歳前後で更年期を迎えても、多くはその後10年くらいで死亡していました。すなわち、お年寄りとして生活する期間はせいぜい10年くらいで、またその頃のお年寄りは趣味も無く、縁側で日向ぼっこをして一日を過ごすというのが私たちが子供のころに描いていたイメージではないでしょうか。ところが時代が進み、現在のお年よりはどうでしょう。平均寿命は80歳を越え、90歳になろうとしていますし、海外旅行、スポーツ(もちろんスクエアダンスも含まれます)に親しみ、縁側(これも最近はない家がほとんどとなりました)で日向ぼっこをするヒマもなくなりました。

高齢化社会を迎えて、私たちの健康に対する意識も変わり、寝たきりで90歳まで生きても仕方がないということから、できるだけ健康で長生きするためにはどうすればよいかという研究が成されました。その結果、開発された一つの方法がホルモン補充療法です。特に女性は更年期を迎えると女性ホルモンが枯渇し、男性に比べて骨粗鬆症を起こしやすくなることが知られています。

それでは、ホルモン補充さえしていれば、女性は永遠に輝いていられるのでしょうか。小生は女性のホルモン療法を専門としてきましたが、スクエアダンスを始めたころ気付いたことがあります。それは、メンバーの皆様が素晴らしく健康で若々しいことで、最初は全員ホルモン補充でも受けているのかと思ったほどでした。もちろん何人かの方は治療中かもしれませんが、多くのメンバーさんはそんな補充をしなくても十分であるとお見受けいたしました。やはり人間は感情のある動物ですから、栄養やホルモンが十分であればそれでいいというものではありません。千代田のように多くのメンバーが週1回集まり、語り合い、さらにダンスを通して、スキンシップ効果で触れ合うことが若返りの秘訣だと思います。


14、ボケと老化
ボケるとはどういうことか考えてみましょう。以前に記憶のお話をしたことがありますが、覚えておられますか? 何かを見たり聞いたりした時、人はその記憶を一時的なメモリーを蓄えるところにストックします。その中で大切なもの、絶対に覚えておかなければならないものは脳の別の部分にある長期間メモリーの場所に移すという作業を行います。この作業は、若い時気ほどスムースに行えるということも以前お話した通りです。この脳の働きは年をとっても同じですし、いわゆるボケ老人でも同じことが行われています。ではボケ老人ではどうして物事をすぐに忘れるということが起こるのでしょうか。

記憶とは医学的に言うと「記銘」、「把持」、「想起」の3段階から構成されています。少し難しいかもしれませんが、「記銘」とは物事を覚えること(理解するといったほうが良いかもしれません)、「把持」とは覚えたことを忘れないでいること、「想起」とは覚えたものを思い出すこと、というふうに理解してください。

私たちはものを覚えるとき、まずそのことを脳みそに刻み込みます(新しいコールを教えてもらったとしましょう:記銘)。1週間後にカスケードホールで、いきなりそのコールをかけられたとき(あわてて1週間前のことを思い出そうとします。1週間記憶に残っているかな?:把持)、脳みそはそれを脳の中から引っ張り出してきて(想起)、体に動きの命令を出します(ホッとすると同時に、冷や汗がジットリ)。

ボケ老人では、記憶の3段階の後ろ2つが障害されています。例えば猫の絵を見せて「これは何ですか?」と尋ねると「猫」と答えますが、しばらくして「さっきの絵は何の絵でしたか?」と尋ねると何であったか思い出せなくなるということです。ボケの程度にもよりますが、母国語を忘れることは余りありませんし、猫などありふれたものはちゃんと理解できるようです。また昔のことは良く覚えていますが、ついさっき聞いたことなどはすぐに忘れてしまうのも特徴です。

ボケ老人ほどではありませんが、私たちも年をとってくると、昔覚えたこと(リモートメモリーといいます)は比較的よく覚えていますが、最近のこと(リーセントメモリー)はなかなか思い出せないものです。ついつい「最近の若い者は…」とか、「昔はこうだったのに…」とか言ってしまいますが、これも老化の一種でしょうかね。


15、 健康で長生き
千田さんのように健康で長生きすることは皆さんの理想だと思います。何か秘訣があるのでしょうか。千田さんに聞いてみても、「そんなこと、わかんねーよ!」と一喝されそうです。最近の研究では、長生きの遺伝子が見つかっており、その遺伝子を持つ人(およびその家系)は長生きできるそうです。羨ましい話ですが、千田さんはその遺伝子をお持ちかもしれませんね。

では私たち普通の人が健康で長生きできるコツは何でしょう。ありふれた答えかもしれませんが、健康管理をきちんと行うことに尽きるようです。すなわち、タバコを喫わない、深酒をしない、夜更かしをしない、ストレスを貯めない、イライラしない、食べ過ぎない、規則正しい生活をする、睡眠をきちんととる、等々、現代人にはあまりにかけ離れた生活をしなくてはなりません。昔の修身の教科書のような生活をする必要はありませんが、やはりポイントは押さえておいたほうが良いでしょう。

タバコは百害あって一利なしで、これに関しては弁護の余地はありません。タバコを喫っている方は直ちに禁煙しましょう。アルコールは少量であれば健康に良いとされています。目安としては日本酒換算で1日1合くらいで(ビールなら中ビン1本くらい)、これ以上は飲み過ぎで健康に良くありません。睡眠は最低6時間、できれば8時間はとって下さい。あと自分にとって都合のいいことは良く覚えておき、都合の悪いことはさっさと忘れてしまいましょう。

他人に迷惑をかけない程度に自己中心的になった方が得のようです。それと、適当に身体を使うことがポイントです。何もしないで、雑用はみんな部下や奥様(夫?)任せにしていると身体はどんどん老化してしまいます。人間の身体はよく出来ていて、使えば使うほどその機能は向上します。逆に使わなければ機能は低下します。長生きしている健康な人に共通して見られる特徴として、皆さんマメでよく動き回っておられます。縁側で昼寝ばかりしていては、健康にはかえって良くないようです。


16、寿命について
先ほどの長生きの話ではありませんが、人間の寿命は驚くほど延びています。戦国時代、織田信長は人生僅か50年と嘆いたそうですが、下っ端の兵隊はもっと若くして死んでいったわけですから,その頃の平均寿命は30歳前後であったろうと推測されています。天下太平となった江戸時代ですら平均寿命は50歳に届かなかったようで、70歳を過ぎることなど古代より極めて稀であるということから「古稀」という言葉が生まれたことは有名です(この故事来歴は昔の中国由来)。

その後、明治維新を経て西洋医学が導入され、医学の発達、新しい薬剤の開発などにより、とくに戦後、飛躍的に平均寿命が延長し、現在では男女とも約80歳と世界一の長寿国となりました。21世紀になるとバイオテクノロジー、遺伝子技術の進歩により、150歳くらいまで延長させることができるという予測が出ています。こうなるとますます老人社会となり、いつまでもあれこれうるさく言う老害がはびこることになりそうです。

それでは人間の本来あるべき寿命は何歳くらいなのでしょうか。さまざまな憶測がされていますが、医学的な介入をしない場合、人間の身体の大きさから類推すると寿命は50歳くらいだろうと考えられています。逆にいえば、50歳からの余命は、本来の寿命ではなくオマケの寿命と考えてもよいでしょう。50歳を過ぎれば、今までのあくせくした生活を反省し、オマケの寿命を生きさせていただくといった謙虚な考え方が必要なようです。50にして天命を知る(もっともこの場合は天から与えられた自分の使命という意味ですが)という論語の教えも、あながち古臭いとは言えないようです。


17、音痴とは?
スクエアダンスには歌がつきものです。コールを聞き、ダンスをしながら、コーラーさんの素晴らしい歌声に聞き惚れているのは小生だけではないと思います。コーラーさんにもいろいろいて、歌の上手な人、歌はあまり上手ではないが、おもしろいコールを聞かせてくれる人、様々です。では、歌のうまい人とそうでない人との違いは何でしょう。声の質も大きな要因ですが、なんといっても、伴奏とうまく合っているかという点が大切だと思います。すなわち、伴奏をよく聴き、そのテンポに合わせて(早すぎず、遅れず)発声を行い、しかもその音程を伴奏に合わせるという行為が必要となります。
では、歌を唄うメカニズムとはどういうものでしょう。わかりやすくするために、音楽をテンポ(スピード)と音程(音の高さ)に分けて考えてみましょう。

人間は一般に、ノリのよい音楽(マーチ、スクエアダンスのカントリーミュージックなど)のときは、知らず知らずテンポが上がります。伴奏をするプロの音楽家にもこの傾向は見られますが、プロはこれを上手に利用して、盛り上げたいと考えているところで少しスピードアップして演奏効果を上げています。ダンスでも、踊れる範囲であれば、ノリのよくなったところでテンポを上げることは悪いことではありません。

生のバンドが入っている場合は、コーラーのノリでテンポが上がり、ダンサーの動きも一段とスムースになるという効果があるでしょう。ところがほとんどの場合はレコードやMDの伴奏でコールされますから、コーラーがひとりで独走してしまうことになります。踊っているダンサーとしては、コーラーに合わせたらいいのか、伴奏に合わせたらいいのか、混乱することになります。もっともベテランのコーラーさんは、すぐに自分の独走に気付き、コールを伴奏に合わせますので、それほどの混乱はないようです。

次に音程について考えてみましょう。どうして私たちは程度の差こそあれ、誰でも伴奏に合わせて歌うことができるのでしょうか。正しく歌を唄うメカニズムについて細かく分析してみましょう。曲が始まると、まず前奏があります。それを聴きながら、歌い手(古いかな?)はだいたいどの程度の音程を出せば伴奏と合うかをか考えます。
さあ歌い出し。ここで発声した第一声は、程度の差はありますが微妙に伴奏とずれていることが多いようです。歌い手は自分の発声した声の音と伴奏との微妙なズレを直ちに察知して、微調整をして歌い続けるという訳です。この第一声の伴奏とのズレ、歌いながら微調整していくテクニックは、トレーニングによりスキルアップが可能です。

音痴にもリズム音痴と音程音痴の2種類があります。伴奏のテンポやリズムに合わない場合リズム音痴、伴奏の音とはずれる場合を音程音痴といいます。一般的に、音程のズレをトレーニングで矯正することはそれほど難しくはありませんが、リズム音痴の矯正は難しいようです。マイペースを貫徹する人は協調性の欠如からやはり音痴の人が多いのでしょうか。


18、絶対音感のお話
絶対音感という言葉を聞いたことがありますか? たとえば、時報のプッ、プッ、プッ、ピーという音が「ラ」に聞こえる、あるいはクラクションがブーッとなると、あれは「レのシャープとミの和音」というように、瞬時にその音階がわかるという人がおられますが、そのような方は絶対音感をお持ちです。絶対音感は幼児期の音楽教育である程度身につけることが可能ですが、多くは天賦の才で、成人になってからはいくら努力しても身につけることはできません。絶対音感に対して、相対音感という言葉があります。これは音を一つ聴いただけではその音が何であるかを当てることはできないけれども、まずピアノなどで「ド」の音を聴かせた後で別の音を聴かせるとその音が「ラ」とか「シ」とかの音階で判るという感覚です。音楽家といわれる人たちは、必ずしも絶対音感を持っているわけではありませんが、相対音感は皆さん備わっています。

ブラスバンドなどで楽器をさわられた経験のある方はお判りでしょうが、管楽器は楽器によって基になる音(キーといいます)が異なっています。たとえば、トランペットやクラリネットは普通の楽器では「ド」の指使いで音を出すと、実際の音は「シのフラット」が出ます。ですから、「ハ長調」の曲をみんなで合奏する場合、トランペットやクラリネットの奏者は、1音上げて「ニ長調」で演奏することになります。多くの音楽家にとって、最初のキーを指定された場合、瞬間的にまわりに音を合わせて音階を変えること(転調といいます)はそれほど難しいことではありません。これもある種の相対音感の能力です。ちなみに相対音感を持っておられる方は、メロディーが音階で聞こえる人が多いようです。たとえば、「君が代」の最初が「レ・ド・レ・ミ・ソ・ミ・レ・・・」というように聞こえます。

一般的にはバイオリンのように音階を指の感覚と聴覚のみで作り出す楽器の演奏家は絶対音感をお持ちの方が多く、ピアノのようにそのキーを押さえれば必ずその音が出る楽器の演奏家には絶対音感は備わりにくいようです。モーツアルトが絶対音感を持っていたことは有名ですが、チャイコフスキーなど有名な音楽家でも絶対音感のない人もおられます。

19、アルコールのお話
運動の後、仕事の後のビールは格別です。ダンスで汗を流した後のビールは一段とおいしく感じるのは小生だけではないと思います。

アルコールの歴史は古く、古代エジプトにも原始的なビールのような飲み物の記載がありますので、おそらく人類の歴史始まって以来、アルコールは日常的に嗜好されていたものと思われます。高度な醸造技術がなかった昔では、お酒はすべて発酵酒で、バクテリアが麦、米、ブドウなどの糖分を分解して産生するアルコールが主成分であったと考えられます。
アルコールは体内にはいると中枢神経を麻痺させ、抑制を解除する作用があります。普段は無口でおとなしい人が酔っぱらうと人が変わったようになるのをご覧になった方も多いと思います。アルコールの量が多すぎた場合は、呼吸や循環の中枢を麻痺させ、呼吸不全、心不全で死に至る場合もありますので飲みすぎには注意しましょう。飲んだアルコールは大部分胃で吸収され、血液に溶け込み全身をまわります。肝臓で代謝されて血中濃度は徐々に下がって行きますが、このアルコールを代謝する酵素(アルコール脱水素酵素といいます)の活性(強さ)には個人差があります。一般に欧米人、黒人はこの酵素活性が強く、アジア人は弱いとされています。中には全く酵素活性を持っていない人もおり、そういう方は注射などの時にアルコール綿で皮膚を拭いただけで真っ赤になってしまいますし、もちろんお酒も全くだめです。
この酵素活性を持っていない人はいくら練習してもお酒を飲めるようにはなりません。持っている人はトレーニングにより強化可能で、飲み慣れれば飲み慣れるほどお酒に強くなります。程度が過ぎれば少量のアルコールでは我慢できなくなって、アルコール中毒となってしまいますので注意が必要です。

肝機能も酵素活性も年齢とともに衰えていきますから、いつまでも若いつもりで暴飲を重ねると命取りになりかねません。
社交ダンスなどでは少量のお酒が入ったあとにダンスをする機会が多いようですが、スクエアダンスでは飲酒ダンスは禁とされています。これはスクエアダンスでは通常のダンスと異なりコーラーの指示通り動かなければならない、すなわち酔っぱらっていては間違いを起こしやすいということが大きな原因と考えられます。慣れた動作でもお酒が入っていれば判断が鈍るもととなりますが、このあたりは酔っぱらい厳禁のクルマの運転に似ていますね。

20、瞬間芸と神経反射
スクエアダンスは「瞬間芸」とおっしゃった方がおられますが、まさに名言だと思います。いつもの例会、いつものコーラーに慣れてくると、「なーんだ、前と一緒か」など不遜にもそんな考えがムクムクと起こってきます。そういうタイミングで手慣れたコーラーさんに意表をつかれたコールをされると、たちまち頭の中はパニック、あらぬ方向を向いて仲間の失笑を買うといった経験はどなたもあると思います。
多くのダンサーが間違えたりうまく踊れなかった場合、コーラーさんはそこで説明をし、大抵はもう一度同じコールを掛けてくれます。ダンスの練習としてはそれで完結するのですが、そこでうまくいっても面白くありませんね。まさに「瞬間芸」で、その瞬間に身体を反応させてコール通りに踊れたときの快感は忘れがたいものがあります。この「瞬間芸」を研くコツはあるのでしょうか。

私たちはものを学習するとき、講師の説明、本やビデオで頭の中にまずイメージを造ります。スクエアダンスの場合は頭で考えているばかりではダメで、実際に動いてその動作を確かめ、その動作を記憶します。頭で考えるだけのもの(数学の問題など)の場合、活発に働いて問題の答えを見つけるのはものを考える中枢(大脳の前頭葉という部分にあると考えられています)の役割となりますが、スクエアダンスなど身体を動かすものでは(スポーツに限らず、たとえばピアノの練習など)、前頭葉で指令したとおりに体を動かすため、体を動かす中枢(頭頂葉から側頭葉にかけて存在していると考えられています)と小脳との連係プレーが重要な役割を果たすことになります。

一度自転車に乗るコツを掴んだ方は、何十年も自転車に乗らなくてもうまく乗りこなせる、ピアノを練習したことのある方は簡単な曲なら何とか弾けるというように、脳全体のネットワークを駆使して覚え込んだことは、まさに身体が覚えていますから、少々のことでは忘れません。スクエアダンスで「瞬間芸」にうまく対応するには、身体で覚え込む、言い換えれば躍り込んで、いろいろなコールの様々な形からのバリエーションを反復練習するということに尽きると思います。このためにはダンサーもさることながら、コーラーの方々の大変な努力が必要だと思います。アニバなどで、よく工夫された面白いコールをかけることのできる人気のコーラーさんにダンサーが群がるのも仕方のないことかもしれません。なお受験勉強などでも、机の前で動かないでいるよりも身体を動かしながら勉強した方が効率はよいことが判っています。暗記物など散歩しながら覚えた方が覚えはいいようです。

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