1、誰でも出来る運動

スクエアダンスは、激しい動きはありません。ただコールに従って歩くだけです。ですから特殊な運動機能や器具を必要とせず、誰でもすぐに始めることが出来ます。この、誰でもすぐということは結構大切で、何かの運動をするときにあれやこれやと準備運動などが必要といわれると何となく足が遠のく、といった経験はどなたもされたことがあると思います。
なお、身体障害のある方でもスクエアダンスが出来るサークルがありますので、ご本人にその気があれば誰でも可能と言って良いと思います。

2、頭を使う運動
歩くだけと言いましたが、それでも3時間の例会で 7~8000歩、アニバなどで1日踊れば1万歩以上歩くことになり、結構良い有酸素運動になります。そればかりでなく、スクエアダンスはコールを聞いてその指示に従って動かなければならない、という決まりがあるのが他のスポーツと異なっているところです。

自分勝手に1万歩歩くのと、コールに従って(時には間違って冷や汗をかいて?)1万歩歩くのでは、運動量にも差が出ますが、アタマの汗をかくという意味でもボケ防止という観点から健康によいと思われます。

サッカーやバスケットボールなど、ボールをめぐる駆け引きで自分の意志に反して動きを変える運動を行ったときは、同じ時間単調な運動を続けた場合に比べて倍以上のエネルギー消費が行われると言われていますので、スクエアダンスでも型にはまった単調なコールばかりでなく、時にはコーラーから予想に反したとんでもないコールが出た方が体にもアタマにも良いかもしれません。


3、左利き、右利き
テニスやゴルフ、野球などのスポーツは、右利きの人は右手のみを使うのが普通です。このため長くそのスポーツを続けると、利き手側(普通は右)ばかりが発達することになります。注意してみていると、その人が右利きか左利きかが判ると思います。一般に右利きの人は脳の左側、左利きの人は脳の右側が中心となって働いています(脳の優位側といいます)。このため、たとえば脳の左側に病気を起こした場合、右利きの人は運動やおしゃべりなどに大きな障害を受けることになります。その点、スクエアダンスは水泳などと同じく左右のバランスの取れた理想的なスポーツと思われます。

知らず知らずに利き手と反対側も使うことになりますので、優位側と反対側の脳も適当に刺激されます。その意味から、時には不得手なレフトハンドの動きをコールされるのは大脳生理学的に良いことだと思います。

ちなみに、人間の体は右回りよりは左回りの方がしやすくなっています(右利きの場合)。陸上競技、スピードスケートなど円周を回る競技は全て左回りとなっています。これは右利きの人は右足が利き足となっているので、右足のキックで左回りの円を回った方が回りやすいからです。目隠しをしてその場で足踏みをすると、本人は動いていないつもりでも少しずつ左の方に回転してしまうということはお聞きになったことがあるかもしれません。これも微妙ながら右足の力が左足より強いためで、左利きの人では逆に右の方に回転してしまいます。

スクエアダンスでもプロムナードでの回転はやはり左回りとなっています。


4、精神面からみたスクエアダンス
人間は一般的に天の邪鬼的な所があり、人からああしろこうしろと言われたことに反発する傾向があります。自分でこうしようと思っていたところに、人から同じ事を先に言われたとき、大人げないとは思いつつもついつい逆のことをしてしまった経験はどなたでもあると思います。コールに従って踊るスクエアダンスも同じ事が言え、レッスンを開始した頃、何となくコーラーの言うことを素直に聞くのがしゃくにさわると感じたのは小生だけでしょうか。

ではスクエアダンスではどうしてコーラーの言う通りに動くことが快感となるのでしょうか。これは人間が持つもう一つの機能、すなわち相手の出した問いかけに見事に答えてみせる(極端に言うと出された難問を見事に解決して、自己満足を得る)という、負けず嫌いの面が関係しているものと思われます。セットが壊れる事を嫌う、自分たちのセットが上手くゲットアウト出来て、他のセットが壊れることに優越感を覚える、初心者では難しいコール(Dance by definition, DBDと言うようです)で最後まで上手にゲットアウトするなど、様々な点でこれらが上手くいったときに「やったね」といった快感を得たことは多いと思います。逆に言えば、そうでなかったときには、がっかりしてしまうということになります。

スクエアダンスでは8人みんなの力で成し遂げるという達成感が得られる所が個人プレーと違う点で、その分上手くいった時の達成感が強いと思われます。一般的に人間は向上心のかたまり(そうでない人もいる?)ですから、最初は難しく感じても何回も繰り返すことで上手く出来るようになると、簡単なものでは物足りなくなるようです。

コールも単調なものではなく、上達すればするほど複雑なものを求める(上のレベルに挑戦したくなる)のは、人間の性(さが)というものでしょうか。


5、スキンシップとスクエアダンス
スキンシップと聞いて、どのようなものを想像しますか。文字どおりの肌と肌の触れ合いという意味合いですが、もともとは母親と子どもの肌の触れ合いによって生れるという親密な交流(母と児のきずな)を意味する和製英語です。最近では親子のみならず、人と人との交流といった意味でも使われるようになってきました。母親と赤ちゃんの最も親密なスキンシップは母乳哺育でしょう。母乳分泌のメカニズムにもスキンシップ効果は絶大な影響を及ぼします。最近では分娩直後から生まれたての赤ちゃんにお母さんの乳首を吸わせることにより、その後の母乳のでがよくなること、お母さんと赤ちゃんを一緒の部屋にする母児同室を採用することにより、その後の母乳の出がよくなることなどが科学的に実証されています。

スキンシップの中では、母と子の絆ほど強いものはありませんが、そこから人と人とのふれあい(身体的なもののみならず、精神的なものも含めて)を総称する言葉に発展していったものと思われます。ではスクエアダンスにおけるスキンシップ効果とはどういうものでしょうか。

中身が見えない箱があるとします。そこに手を入れて、中身を触れと言われたときに、何らかの情報がなければしりごみしてしまうでしょう。中にはネズミが居ますと言われるとネズミ嫌いの人にはかなり抵抗があるはずです。実際にはぬいぐるみが入っているだけなのに、その表面の毛に触れただけで思わず手を引いてしまうことになりそうです。初対面の人と対面する時はそれに似たことが起こります。特に日本人は握手をする習慣がありませんので他人と接触するのが苦手なようです。個人的なことで恐縮ですが、小生はダンスというものは中学、高校のフォークダンス以来縁がなく、千代田スクエアダンスクラブで大人になってはじめてダンスを経験いたしました。そのためか、ビギナーとして初めてセットを組んでいただいた時に、ドキドキすると同時に、思わず手を引きそうになるくらい緊張した覚えがあります。

スクエアダンスでは、社交ダンスほどではありませんが、手を取り合うことになります。握手は最も単純でかつ有効なスキンシップといわれています。その他にアイコンタクトといって、目と目でお互いを理解しあうという方法もスキンシップのひとつと言えましょう。手を取り合い、見つめあうという動作は、親愛の情を示す表現ですから、やはり笑顔で行ったほうが効果的です。手のとり方も、だらんと下げてしまわないで、ハンズアップで行い、踊り方もきびきびしている方が気持ち良く感じるものです。

スクエアダンスでは、最初にパートナーと手を取り合い、次いでダンスが進行するに従って、他の女性と(時には男性とも)手を取り合うこととなりますが、お互いを知り合う、友情を深め合うという意味でこれほど効果的なことはありません。しかも1セット8人で同時にスキンシップが取れるのは、スクエアダンスしかないのではと考えています。その意味で、グランドライトアンドレフトの時など、しっかり握手をして(時にはイヤな相手もいるでしょうが)通り過ぎた方がお互いに気持ちの良いコンタクトとなるのではないかと考えています。

先ほど述べたアイコンタクトも同様で、顔と顔が向き合った時には、(やはりイヤでも)お互いの目を見つめあう(?)ことも大切です。


6、コーラーとダンサーとのコンタクト
スキンシップ効果はダンサー同士だけではありません。コーラーとダンサーとも緊密に結ばれています。クラブによってはコーラー不在のため、レコードやCDにあわせて踊っているところもあると聞きます。さらに上のレベル(チャレンジ)ではコンピューターがコールを組み立てるという話を聞いたこともありますが、これではつまらないと思います。以前コーラーさんがお持ちのレコードの裏面で踊ったことがありますが、味気ないことこの上なしで、生のコールの素晴らしさを思い知りました。

このような意味で、コーラーとダンサーとは緊密なスキンシップが保たれているといって良いでしょう。ダンサーの動きを見て、その場でコールを組み立てる、間違いそうなセットを重点的にフォローする。場合によっては音楽をとめてインスタントレッスンを行うといったことはレコードやコンピューターでは出来ないことです。

ダンサーもコーラーに対して多大の影響を与えています。ダンサーが楽しそうに踊っているのを見てうれしくないコーラーはいないはずですし、ダンサーのノリでコーラーがさらに面白いコールをかけてくるというサイクルができれば、これはダンサーがコーラーに働きかけたスキンシップ効果と言えましょう。まさにコーラーがダンサーを育て、ダンサーがコーラーを育てるといったお互いの相乗効果でクラブが成り立っているといっても過言ではないと思います。そういった意味で、多くのコーラー、キュアーがおられる千代田SDCはなんと贅沢なクラブでしょうか。


7、引きこもり、孤立化に及ぼすSDの効用
最近、若い人による信じられないような事件が頻発しています。いろいろな事情があるのでしょうが、多くは他人とのコンタクトがうまく行かず、いわゆる引きこもり状態になり、良からぬ事を考え付くのではないでしょうか。

最近の遊びは、テレビゲームに代表されるように、ひとりで遊ぶものが中心です。我々が子供の時は、多くの仲間と遊び、時には喧嘩もして、自然に社会のルールを覚えていったように思いますが、テレビゲームではそうもいきません。面白くなくなったら(自分に都合が悪くなったら)リセットボタンを押せば良いという環境に慣れてしまえば、恐ろしい事件を引き起こす可能性も十分に考えられます。

スクエアダンスは8人でチームを組んで踊る遊びですから、今の若い人たちに是非広めていきたいものです。8人が力を合わせてひとつのことを成し遂げる、時には自分が、時には他の人が間違えてセットを崩してしまう(リセットボタンはありません)、難しいコールにもめげないで最後までゲットアウトする等、まさにチームプレーで、社会の縮図(オーバー?)とも考えられるセットを組むことにより、いろいろな勉強ができると考えられます。
スクエアダンスがもっと若い人たちに普及すれば、青少年の非行も減るのではないでしょうか。


8、記憶のメカニズム
ものを覚えるということは、どういうメカニズムでしょうか。
私たちはものを見たり、聞いたりしたことは、しばらくの間は忘れません。これは一時的に出来事を覚えておく脳のある部分に記憶(メモリー)として残るためです。しかし、どんな人でも一定の時間が経つとその記憶は曖昧となってきます。それでは、忘れ得ぬ思い出(いいことも、悪いことも)のような記憶はどうなっているのでしょうか。一時的に蓄えたメモリーの内、自分自身で興味を覚えたことや、何が何でも覚えておかなければならないこと(試験勉強、スクエアダンスの動作など)は、脳の別の部分に移して蓄えられています。この部分は、一時的なメモリーをストックするところと違う場所にあって、そう簡単には忘れないで記憶を蓄える事ができます。個人差はありますが、この一時的メモリーから長期間メモリーに記憶を移す能力は、一般的に若い時期ほどスムースに行われます。鉄は熱いうちに打てと言いますが、まさにその通りで若いうちに覚えたことは年をとってもなかなか忘れないものです。

では年をとってからの習い事は不利かというとそういう訳でもありません。それまでの人生経験で得られたいろいろな記憶が残っているので、新しいことの吸収にそれまでのメモリーを利用できるからです。年をとってからの出来事でも、たとえば阪神大震災のように強く印象に残ったことはなかなか忘れないものです。反対に若い頃の事でも、大したことではなかったことはすぐに忘れてしまいます。一時的メモリーから長期間メモリーに記憶を移す時に、何か印象に残るような過去の出来事などを連想しながら覚えこむという方法は、記憶術の本などにも書かれていますが、理にかなった方法です。

記憶のもうひとつの特徴は、普段いつも使っていることは病気にならない限り絶対に忘れないということです。カスケードホールから家に帰るのに、病気になればいざ知らず、道がわからなくて困るという人はいないと思います。スクエアダンスにもこれは当てはまり、例会にはなるべく出席するということがダンスのフィギュアを忘れない秘訣です。雀百まで踊り忘れずといいますが、私たちもせっかく覚えたスクエアダンスをいつまでも忘れずに踊っていたいものですね。


9、ストレスと病気
ストレスのない人はいないと思います。豪快で能天気に見える人でも人知れずストレスを抱えている事が多いようです。風邪は万病の元といいますが、ストレスもまたいろいろな病気の誘因となります。精神的なストレスが積み重なると食欲も減退し、体重も減ってしまう人がいる反面、逆にストレス太りといってストレスにより食欲が亢進する人もいるようです。ストレスが元になって起こる病気として有名なものとしては、胃炎、胃潰瘍があります。これは人間だけでなく、動物にもみられます。

胃潰瘍の薬の効果をみる実験として有名なものに、ハツカネズミを用いたものがあります。ネズミを入れた檻の床に微量の電流を流しっぱなしにすると、ネズミは足がピリピリするのでストレスを感じます。ひとつの檻のネズミにはエサだけを与え、もうひとつの檻のネズミにはエサに薬を混ぜたものを与えて一定の時間後に胃袋の中を見るという実験です(残酷?)。人間と同じく、ハツカネズミもストレスにより容易に胃炎、胃潰瘍を起こします。

電気を流した床ほどではないにしても(あるいはもっとひどいかもしれませんが)、人間社会にはストレスがつきものです。上手に発散しないと大きな病気の引き金になりかねません。ストレスの発散法はいろいろありますが、人にグチを聞いてもらうことも気分をすっきりさせる方法のひとつです。もうひとつは楽しめる趣味を持つことですが、日本人の悪い癖でストレスを発散させるつもりではじめた趣味がストレスとなることがあるので注意が必要です。これはその人の性質にもよるのですが、はじめたことを何でも完璧にやらないと気がすまない、競争には負けたくないといった性格の人によくみられます。ダンスの上手さには個人差があること、今はなかなか上手く行かないことも繰り返してやっていくうちに自然に出来てくることなど、理屈ではわかっていても自分は落ちこぼれだと勘違いしてしまうことがあります。スクエアダンスを難行苦行にしないように心がけたいものです。


10、遺伝子をめぐる話題
最近、新聞を開けば、必ずと言っていいほど遺伝子とかDNAという言葉を見かけます。その他、クローン人間などSFの世界でしかなかったことが現実に可能となりつつあるようです。少し前に、ジュラシックパークという映画が上映され、話題になりました。恐竜の遺伝子を元にして、クローン技術で現在に恐竜を復活させるというお話でしたが、あながち映画の世界だけとは言えなくなってきました。ドリーという名前のクローン羊のことは覚えておられるでしょうか。母親の細胞を取り出し、そのDNAを他のヒツジの受精卵に注入して母親と全く同じ遺伝子を持つヒツジを誕生させたというニュースは世界中を驚かせました。同じ技術を使えば人間にも応用可能です。自分の細胞を残しておけば、将来クローン人間として復活可能な時代になりそうです(もっとも記憶はコピーできませんので、見かけは本人そっくりでも成人すれば全く別の人間になってしまいます)。

クローン人間は環境が異なるため、本人と全く同じとは言えませんが、やはり遺伝子に由来する性質などは似たものとなることが予想されます。ある種の遺伝子を持つ人は、特定の病気に将来かかることが予想されると言ったことから、アメリカでは生命保険の加入時に遺伝子診断を義務付けている会社もあるそうです。

ではスクエアダンスと遺伝子はどのような関係があるでしょうか。ダンスが上手くなる遺伝子はあるのでしょうか。残念ながら現在のところ、そこまで遺伝子の研究は進んでいません。ただ、ある程度の遺伝形質(素質と言ったほうが判りやすいかもしれません)は受け継がれることは昔からよく知られています。スポーツの選手のジュニア(若・貴兄弟など)を想像していただければお判りになると思います。プロのスポーツとスクエアダンスとの決定的な違いは、プロスポーツでは素質だけではダメで(長嶋ジュニアなど)、天性のセンスが必要であるのに対して、スクエアダンスはだれでも楽しめるというところではないでしょうか。


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