83.バランス感覚
 人間は二足歩行です。他の動物は四足歩行ですから、安定して歩くためにはバランス感覚が必要です。このため、人間の脚から骨盤にかけての筋肉は他の動物に比較するとものすごく発達しています。いちばんの特徴は、前後の動きだけでなく、左右の動きにも対応していることです。動物の場合は、身の危険を察知したときなど、特殊な場合は左右に動きますが、多くはその時だけで、横歩きを持続することは、特殊な訓練を受けた場合を除いて(サーカスの動物など)不可能です。二足歩行ロボットは20年ほど前から研究されており、最近では自作できる模型キットも発売されるくらいポピュラーになりましたが、前後に動くことはできても脚をクロスさせて左右に自在に動くロボットはまだ発明されていないようです。これは前後(いわゆる1次元)だけでなく、左右(前後と合わせて2次元)のバランスを取ることが、極めて難しいからだといわれています。人間は健康であれば脚をクロスさせて左右どころか斜めにも自由に歩くことができますが、この仕組みはどうなっているのでしょうか。

 まず何といっても、身体をしっかり支えるための筋肉が必要です。さらに前後左右に足を運ぶと、当然バランスが崩れますが、それを瞬時に察知して倒れないようにする神経反射が必要となります。これは耳の奥(内耳といいます)にある三半規管と小脳との連携で無意識に行われています。たとえばその場で目をつぶって身体をくるくると回転させて、その直後に真っ直ぐ歩くようにいわれても、酔っ払いのように千鳥足になってしまうといった経験はどなたにもあると思います。このバランス感覚は、トレーニングにより鍛えることが可能です。

 高齢になってくると、バランス感覚も衰えて、つまずいたり転んだりしやすくなります。ひどくなると日常生活にも支障を来すようになり、ロコモティブシンドローム(ロコモ)といわれています。ロコモの予防にもスクエアダンスは極めて有効です。

 単純な運動ですが、3時間の例会で8000歩近くも歩くこと、難しいコールによって、右や左に動き回ること、アレマンザーなどの回転計の動きで三半規管が鍛えられることなどが利点としてあげられます。ラウンドダンスは左右の動きや回転などがもっと複雑になりますので、バランス感覚の刺激にはさらに有効でしょう。スクエアダンス、ラウンドダンスとも、バランス感覚を鍛えてロコモ予防という点で、すばらしい運動だと思います。


84.言葉の理解
 千代田には、時折外国のお客さまがお見えになります。またアニバでも、必ずアメリカ人コーラーがいらっしゃって、楽しいコールを聞かせてくれます。そのような意味では、千代田の会員さんたちは外国人の発音にかなり慣れておられると思いますが、それでも聞き慣れない発音が出てくると動きが止まってしまったり、間違えたりしますね。コールは万国共通なのにどうしてでしょうか。

 まず、日本語には母音は5つ(あ、い、う、え、お)しかありませんが、英語では日本語で言う「あ」の発音だけで8種類もあります。しかも日本語と同じく、地方の訛り(カリフォルニア訛り、オーストラリア訛りなど)がありますから、ますます混乱してしまいます。私たちにとって、とても判りやすい日本のコーラーさんですが、外国でコールした場合はその逆が起こり、外国人のダンサーがなかなかコールを聞き取れないという現象が起こってしまいます。ではどうしてこのようなことが起こるのでしょうか。

 人間が言葉を覚えるのは乳児期からですが、その限界は7歳くらいといわれており、それまでであれば、5カ国語くらいは理解できるようになるといわれています。これは教育ではなく環境によるもので、国際結婚では両親からそれぞれの母国語が入りますので、自動的に2カ国語が理解できるようになることが多いようです。多くの言語が話されている地域(たとえばスイスでは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、英語などが通常飛び交っているそうです)で育つと、友人やその両親など、お付き合いが広がってマルチリンガルになります。ただしその環境が思春期まで維持されなければ、すぐに忘れてしまいます。帰国子女でバイリンガルの方は、小学校くらいから高校まで現地で過ごした後に帰国されていますので、両方の言葉が流ちょうにしゃべれるということになりますが、幼児期に5年ほど滞在したという場合なら、帰国するとすぐに現地の言葉を忘れてしまいます。

 日本語は英語やヨーロッパの言葉とはかなり違っていますから、そのハンディもあるのでしょうが、一般的に日本人は英語の聞き取り、おしゃべりが苦手のようです。一番の弊害は、発音の悪い日本人の英語教師から英語を習ったことかもしれません。日本語の母音は5つしかありませんので、カタカナ英語になってしまうからです。もうひとつは、ローマ字の教育です。英語のスペルは、アルファベット表記と発音がまるで異なりますが、私たち世代はどうしてもローマ字発音をしがちですので、ネイティブスピーカーが話す言葉が聞こえにくくなってしまいます。

 スクエアダンスのコールは英語ですが、例会で躍り込んで、身体で覚えてしまえば外国のコーラーさんのわかりにくい発音でもすいすいと踊れるようになります。普通のおしゃべりではなく歌の内容まで英語でわかるなんて、スクエアダンス以外ではあり得ないと思います。多くの外国人コーラーに鍛えられれば、ふだんの英語も理解できるようになるのではと思っています。

85.カタカナ語と和製英語
 最近、あちこちでカタカナ語を見たり聞いたりします。でもその中には、本来の意味ではない間違った使い方をされているものもあります。有名なところでは、「ナイーブ」があります。これは、日本では神経が繊細な、というようにどちらかというとよい意味で捉えられていますが、本来は、無神経なとか鈍感なという意味ですから、外国人には使わないようにした方がよいでしょう。他にも「フリーマーケット」と聞くと、free marketのように感じる人が多いと思いますが、本来はflea market(蚤の市)が正しいようです。でもこの場合は、「ノミの市」ということですから、むしろ日本語表記の方が正確に表現していますね。

 ニュースや新聞上でも、カタカナ語は多く使用されていますが、なかなかよく出来たものもあります。「バージンロード」などはその典型で、英語にはこのようなしゃれた言い方はなく、単にaisle(アイル、通路という意味です)としか呼びません。でも本来の言い方から外れてしまっているものも多く、たとえばボールペンはball point pen(ボールで出来たペンはありません)、コーナー(第2コーナーというような競技場などの場合)は、bendもしくはcurveというのが正しい用法です。でも日本ではそのような言い方が定着していますので、いちいち目くじらを立てる必要はありませんが、外国に出かけられたときには注意が必要です。

 和製英語とは、文字通り日本で作られた英語的表現で、有名なものとしては、スキンシップという言葉があります。英語の辞書には、skin shipという単語はありません。他には電子レンジは英語ではmicrowave ovenといいますが、日本人にはよく判る造語だと思います。

 勘違いしやすい例としては、スチール写真という言葉がありますが、これはstill pictureから来た言葉で、still(静止)が元の言葉ですが、発音上なんとなく鋼鉄(steel)のように感じていた方も多いと思います。これは動画がmotion pictureといいますので、それに対応した言葉だと思います。

 スクエアダンスでは、英語のコールが使われます。これは正真正銘の英語ですから、変なバイアスはかかっていません。逆に日本語に変えようとすると、先ほど述べたような和製英語的変換が起こる可能性があります。コーナーは角やカーブというように考えると、おかしくなりますし、ヘッド、サイドを頭、横というように理解している人はいないと思います。スクエアダンスのコールは、結構奥が深い(動作だけでなく、言葉としても)ので、コールを聞いて踊るという習慣は、英語の感覚のスキルアップ(これも和製英語。正しくはimproveという言葉を使います)にも役に立つと思います。

86.加齢と成長
  時間の経過には誰も勝てません。また時間は万人に共通で、どなたにとっても1日は24時間。これほど公平なものは無いでしょう。生き物はすべて時間の経過と共に成長し、ある年限に達すると死んでいきますが、これは避けようのない事実です。将来iPS細胞の技術が発展して、クローン人間が出来るようになったとしても、受精卵から成長して、赤ちゃん、小児、成人となるわけですから(今のところ、記憶のコピーは出来ません)、成長過程で全く別の人格を備えた人間になる可能性があり、その人のコピーというわけにはいきません。最近は女性の社会進出が活発となりました。そのこと自体は歓迎すべきことではありますが、現在のところ、子どもを産むという機能は女性にしかなく、しかも女性の生殖年齢には限りがありますので(一般的には40歳を過ぎると妊娠は難しくなります)、わが国は人口減少という局面を迎えています。個人的なことですが、小生が勤務している病院でも、初産婦さんの平均年齢は36〜37歳で、40歳以上のお産も珍しくありません。逆に20歳代のお産は珍しいくらいです。女性の社会進出は歓迎すべきことですが、お産ということに限れば、やはりタイミングが大切ということでしょうか。

 スクエアダンスの世界でも、成長は大切なキーワードです。ダンサーとしては、ベイシック、メインストリームを終了すれば一人前となりますが、すいすいと楽しく踊るためには、経験を積み重ねる勉強が必要です。上のレベルを目指す場合は、プラス、アドバンス、チャレンジと際限なく広がっていますから、さらに研鑽に励む必要があります。コーラーさん、キュア−さんたちも、会員を飽きさせないように毎日努力されていると思います。クラブとしても、会員は加齢を重ねますので、新しいメンバーの勧誘は大切な活動だと思います。ダンサーどうしが助け合い、会の運営に協力し、千代田スクエアダンスクラブを発展させていくことは、スクエアダンスの楽しみを普及させるという点からも大切なことだと思います。


87.向上心のもたらすもの
 何かを始めたとき、それをもっとうまく、もっと素晴らしいものにしたいという気持ちが働きます(働かない人もいるカモ)。人間は向上心があるおかげで、文明が発展したと考えられています。石器時代から、人類は工夫を重ねてより便利な道具を生み出そうと努力し、よりよい暮らしを得てきました。人間ひとりの力は限られていますから、みんなで力を合わせる(コミュニケーションの道具として言葉の発達が必要です)、集団生活を行うようになれば、役割分担を決める必要が出てくる(助け合い、物々交換など社会活動が発達します)など、いわゆる文明社会が形成されてきます。これもひとりひとりの向上心のなせる技でしょう。

 現在でも文明の発達は目覚ましいものがあります。1964年の東京オリンピックを境に、新幹線、高速道路が整備されてきましたが、今の状況を50年前に予測できたでしょうか。新幹線網は、北海道から九州は鹿児島まで、高速道路は全国に張り巡らされ、国内のみならず外国にも簡単に行ける時代となりました。

 小生が初めて家庭用のコンピュータを利用したのは、30年ほど前でした。その頃は、電話線を利用したネットワークなどはなく、細々と文章を書いたり、データ整理をしたりする程度でしたが、今では手のひらに入るスマートフォンが当時のパソコンの数千倍の能力を持っていますので、写真やビデオを簡単にやりとりできます。でも最初にその道具や仕組みを発明、発見した人は、すごいですね。特別な才能に恵まれていたと思いますが、それ以上にすごい努力をされた結果だと思います。

 どの領域でも、日進月歩で進化しています。産婦人科学の世界でも、日々勉強していなければ新しい治療法などに追いつけません。小生の専門領域でも、超音波機器の発展は素晴らしく、今ではお腹の中の赤ちゃんの顔や表情がくっきりと描写できる機械が日常で使われるようになりました。40年前は、昔の魚群探知機のような不鮮明な映像しか利用できませんでしたが、それでもその当時は画期的な装置だとびっくりしたものです。

 スクエアダンスの世界も進歩しています。最初の頃は、ギターなどで伴奏しながら、マイクもなしに行われていたそうですが、エジソンの発明以後はマイクとスピーカーのおかげで何十人でもダンスを楽しむことができるようになりました(詳細は西村会長がよくご存知です)。コールの数も増え、動きも複雑になってきましたが、そのおかげでダンスの楽しみ方も幅を拡げることができました。コーラーの皆さんも、日々切磋琢磨しておられ、われわれダンサーを飽きさせないよう努力しておられます。ダンサーもコーラーさんたちの努力に応えるよう、向上心を持って例会に参加しなければと思っています(とはいっても、なかなか難しいですが・・)。

88.ボケる人、ボケない人
 認知症になるかどうかは、基礎的な学力とは関係ないことが判っています。たとえば有名大学の教授でもボケる人はいますし、学歴のない方で全くボケていない方も数多くおられます。ただ、一定の年齢に達したあとに(定年退職など)、何もしないで年金で遊んでいるような生活をしている人はボケやすいと考えられています。これは脳に何の刺激も加わらないからで、刺激を受けない脳は退化する一方だからです。人間の身体は使わないところはどんどん退化し、使えばどんどん進化することが知られています。ですから一般社会では、生涯現役で頑張っている人ほどボケる暇がないということになります。仕事をしていると、毎日同じことをしているようでも細かいところが違ってきますので、脳に刺激が伝わります。やはり健康である限り人間は仕事(社会奉仕でもいいでしょう)をして、身体を動かした方が健康にも脳の刺激にもよいと考えられます。

 スクエアダンスはボケ防止の刺激としては、これ以上ないスポーツです。スクエアダンスは老化防止に役に立つことは皆さんよくご存知だと思いますが、同じスクエアダンサーでもボケやすい人、ボケにくい人がおられます。その違いは何でしょうか。

 人には個性があり、千差万別です。性格もいろいろで、全く同じ人は存在しないと申し上げてよいでしょう。DNAが全く同じの一卵性双生児でも、指紋が異なっているのと同じように個性の違いがあることがわかっています。性格的には、マメな人、学習意欲の強い人、人の話を素直に聞ける人などポジティブな性格の人はボケにくく、ずぼらな人、与えられた仕事を一生懸命にしない人、人の忠告に耳を貸さない独りよがりの人などネガティブな性格の人はボケやすいと考えられています。ダンスでも向上心を持ち、テキストやビデオで一生懸命勉強する人はボケないと思います。千代田スクエアダンスクラブはベイシックからC1まで希望すれば勉強できる、世界にも稀なクラブだと思います。せっかく恵まれた環境にいるのですから、私たちダンサーもクラブを利用してボケないようにがんばりたいものですね。
89.なくて七癖
 この言葉は、皆さんよくご存知だと思います。何の癖もなく、目立たないような人でもよく観察すればいくつかの癖を持っているということですね。ではその癖はどのようにして身についたものでしょうか。

 家庭では子どもに対して、「人に会ったときには挨拶しましょう」、「食事の前にはいただきます、終わった後はごちそうさまといいましょう」など様々な教育(というか躾ですね)をされていると思います。この躾もよい癖といえるでしょう。その他、喧嘩をしない、人のものを盗まないなど社会生活に必要な「決まり」もクセの一種でしょう。よい癖を付けることは、その人の一生にとってとても大切なことだと思います。

 それ以外の癖の多くは、その人が成長する過程でいろいろな人と触れあうことにより、他の人のマネをすることで身についていくと言われています。学校の先生が授業中に何気なく言った言葉を真似る、友達の走る姿がかっこいいと思ってそれを真似る、映画スターを真似てポーズを決めるなどなど、自分がいいなと思うことを人は自然に真似ますが、それが積み重なって自分の癖となっているのが大部分です。癖は言葉だけでなく、行動にもみられます。

 人の歩く姿(歩容といいます)は、人によってすべて異なっています。指紋と同じくらい個人識別に利用できるということで、事件が起こったときなどの監視カメラに写った犯人の歩容から容疑者を特定するということまで可能となっています。それ以外でも、ちょっとした手の組み方や首のかしげ方など皆さん様々で、これも癖(個性)でしょう。ダンスの際の歩き方、手の組み方などにも癖は現れます。バウ、スイングなどいろいろなところでその人の癖が現れています。コーラーさんもコールの組み立てにひとりひとり癖があります。注意していると、このコールの次はこれが来るというのが判るようになると思います。それを予測するのもスクエアダンスの楽しみかもしれません。でも油断は禁物。ベテランのコーラーさんは、ダンサーが癖を読んで予想していると判ると、たちまちふだんは使わないコールの組合せを連発してきます。私たちダンサーは、どんなコールが来ても直ちに反応できるよう躍り込んでおきましょう。スクエアダンスは奥が深く、とても癖では説明できませんね。


90.継続は力なり
ひとつのことを長く続けることは、簡単なようでなかなか難しいことです。我が国では100年どころか、1000年以上続いている老舗が数多くありますが、世界的にはとても珍しいことです。日本が島国で、他の国から侵略されにくいことも大きな理由のひとつかもしれませんが、日本人の持つ辛抱強い性格、いろいろと創意工夫してより良いものを作り出すなどの国民性がいちばん関係していると考えられています。長く続いている企業は大きな会社だけでなく、街の小さなお店にも有名な老舗は数多く存在し、そのお店の作り出す製品は独創的で、他の人がいくら真似をしても上手くできないということはみなさんよくご存知だと思います。

 仕事を継続することは、いつもコンスタントに安定した仕事をすればよいということではありません。そのことももちろん大切ですが、常に新しいものを造り出すといった努力が必要となります。いわゆる老舗は、先人から受け継いだ技術を後世に伝えるとともに、それを踏まえてさらに工夫して、常に新しいものを造り出しています。ただ、一度技術が途絶えますと、それを再び再生するには大変な努力が必要となります。

 イタリア人のストラジバリは、バイオリン製作で有名ですが、現在でもその作り方は完全には解っていません。彼が作り方を秘匿したので、後世に伝わらなかったという一面もあるでしょう。ですからストラジバリウスは今世界にある約600挺がなくなったらおしまいということになります。バイオリンに関してはおもしろいお話しがあり、世界の名器といわれている製品と、一般で売られているバイオリンとをブラインドテストして、どのバイオリンが一番いい音を出すかというコンテストをしたことがあるそうです。その結果は、驚いたことに現在の楽器に軍配が上がったということです。音の好みは時代とともに移りゆくようで、昔の製品が必ずしもよいとは限らないようです。

 スクエアダンスは17世紀頃からフランスやイギリスのフォークダンスを元に始められ、トーマス・エジソンの蓄音機などの発明により広く普及したと言われています。歴史的には200年以上前から踊られているようですが、現在のようなモダーン・スクエアといわれる複雑な動きが取り入れられたのは、およそ50年くらい前からでしょうか。世界中で楽しまれていますが、最近は愛好者が減少気味とのことです。では200年以上も歴史のあるスクエアダンスを盛り上げるためには、どのようにすればよいでしょうか。

 解決策は、わが国の老舗が受け継いできた方法が参考になりそうです。すなわち、伝統を継承しつつ斬新性を取り入れるということです。これは新しいコールをどんどん発明すると言うことではありません。既存のコールを元に、おもしろい組み合わせを工夫して創造するということです(勝手なことばかり言ってごめんなさい)。さらに新しい人材をどんどん取り入れて、新陳代謝を活発にすることも大切だと思います。千代田スクエアダンスクラブは、会員数300名以上という大きな組織ですが、会長や会員の皆さんのご努力もあり、毎年20〜30人が新たに入会し、常にフレッシュな刺激に満ちあふれています。このように裾野を広げて組織を活性化していくと言うことは、スクエアダンスの発展にとても大切なことだと思っています。

 スクエアダンスはベイシックからチャレンジまで幅広く楽しめますが、自分が楽しいと感じるレベルで楽しむのが一番だと思います。ダンサーとしては、無理に上にチャレンジするよりは自分に合ったレベルで楽しく踊ること、ダンスだけではなく、会員との交流も楽しむことでしょう。コーラーさんとしては、易しいレベルでもおもしろいコールを組み立てること、うまく踊れない場合には優しくフォローする(何回か同じコールをやり直すなど)などでしょうか。スクエアダンスが未来に向けてますます発展し、100年後には伝統的なダンスとして世界中でもっと幅広く愛好されることを夢見ています。


91.好きこそものの上手なれ
 皆さんは好きなもの、嫌いなものがおありだと思います。食べ物、生活習慣、仕事、趣味などいろいろな分野を見渡すと、好きなもの、嫌いなもの(苦手なもの)があるでしょう。ではこの好き、嫌いという感覚は、どこが司っているのでしょうか。好き嫌いというのは感情ですから、司令塔である脳にその部位が存在しています。

 人間の脳は大きく分けると、ものを考える部分(大脳皮質)とほとんどの動物に共通している基本的な部分(大脳辺縁系)、それに身体のバランスに関係する小脳、心臓や内臓の動きをコントロールする延髄などから構成されています。好き嫌いをコントロールしている部分は、大脳辺縁系の中にある扁桃体という部分(神経核といいます)であると言われています。大脳辺縁系には、一時的な記憶をコントロールする海馬やホルモン分泌の中枢である視床下部も含まれますから、好き嫌いを上手にコントロールすれば勉強嫌いになることもありませんし、ホルモンバランスを崩すこともありません。勉強するときに、何らかのきっかけで好き嫌いが生じると、その科目が永遠に苦手科目となってしまうことがあります(例えば英語の先生が何となく嫌いだったので英語が苦手になるなど)。その他、仕事のストレスが重なって無月経になるなど、たかが好き嫌いといっても健康に大きい影響を与えることになります。それでは、好き嫌いを上手にコントロールするコツはあるのでしょうか。

 嫌いな仕事があるとしましょう。仕事ですからイヤでも手をつけなければなりませんが、まずはコツコツと始めることです。そしてその仕事の中に、面白さを見つけ出すことが大切です。大抵のイヤなことは、昔の経験から成り立っていますが、それを振り払って仕事の中身を掘り下げていくと、何かしら興味を引くものが必ず現れます。仕事には、あらゆる技術と同じでコツがあり、それがわかれば仕事はずっとおもしろくなり楽になります。そうするとイヤなことは好きなことに変化します。

 スクエアダンスの上達にもこれは当てはまります。どうもこのコールは嫌いだ、これが出るといつも間違える、という苦手コールがある場合、テキストやビデオを見て、あるいはコーラーさんに聞いてそのコールを掘り下げてみましょう。コールの本質、そのコールができた背景など蘊蓄を深めると苦手なコールが好きになってきます。好き、嫌いの一時的な感情で物事を決められるのはこどものうちだけ。スクエアダンスを通じて人生の幅も拡げられるようになりたいと思っています。

92.宇宙のお話し
 日本の小惑星探査技術は、世界一と言ってもいいでしょう。もう数年前になりますが、小惑星「イトカワ」に着陸して、表面の砂やチリを持ち帰った「はやぶさ」の快挙は、皆さん記憶に残っていると思います。前回の「はやぶさ」は、いい仕事をしたことももちろんすごいことですが、数々の失敗にめげずに任務を遂行した姿に感動した方も多いのではないでしょうか。今回の「はやぶさ2」は、前回の失敗を教訓にして、小惑星「リュウグウ」への着陸を目指して、今のところ順調に飛行しているようです。

 ところで、宇宙船に人間が乗って探索することは可能なのでしょうか。人間の場合は、まず安全性の確保が必要となります。もちろん、空気、水、食料もそれなりの量が必要となるので、かなり大がかりな宇宙船ということになります。およそ50年前にアポロ計画で月に人類が到達しましたが、その時の宇宙船は3人がきちきちに閉じ込められた小さなものでした。でもそれを送るためには、サターンⅤという高さ110mの超大型のロケットが必要でした。宇宙滞在時間は2週間くらいでしたが、その当時ではこれが限界だったのでしょう。小惑星探査には数年の期間が必要ですので、現在ではやはり無人探査機ということになります。

 では宇宙ステーションではどうでしょう。日本人宇宙飛行士も積極的に参加していますが、長い場合は半年以上宇宙に滞在します。この場合は地球に比較的近いこともあり、空気や水など定期的に運び込まれますので、長期滞在が可能となります。でもそれ以上長期間宇宙にいることは、医学的には困難だと思います。宇宙線の問題などいろいろありますが、一番大きな要因は無重力状態が骨や筋肉に及ぼす影響でしょう。長期間宇宙に滞在して地球に戻ってきた飛行士は、自力で立ち上がることができません。筋力の低下、骨粗鬆症などの合併症のためですが、リハビリに数週間かかってしまいます。SF映画では人工重力装置が働いていて、皆さん宇宙船の中をスタスタ歩いていますが、現実ではまだそんな技術はありませんから、惑星探査は当分難しいかもしれませんね。

 筋力を維持する、骨を丈夫に保つ上で、重力はとても大切な役割を果たしています。メタボ気味の人は重力がウザく感じるかもしれませんが、そのおかげで筋力トレーニングができて、骨も丈夫になっているのです。スクエアダンスは身体に無理な負担がかからない理想的な有酸素運動です。しかも工夫されたコールで頭もフル回転しますから、宇宙飛行士のリハビリにも向いているかもしれません。


93.メロディーのお話
音階は、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ドということは皆さんよくご存知でしょう。ピアノの鍵盤では、黒鍵がありますので、白鍵の「ド」から「シ」までの7つと黒鍵の5つをあわせて12音階に分けて表記されます(ドのシャープとか、シのフラットとか)。科学的には、ピアノの真ん中当たりの「ラ」の音が440ヘルツと定められており、そこから数学的に12等分されています(下の「ラ」は220ヘルツ、上の「ラ」は880ヘルツ)。西洋の音楽では、教会の音律(賛美歌など)が中心となって、現在の音階が定められましたが、アラビア、インド、中国などそれ以外の地域では、いわゆる西洋音階に入りきらない独自の音階で音楽が作られています。日本でも雅楽の音階は、単純な音階では記載できないため、節回しを記載した独特の符丁のような楽譜(?)を使用しています。

 一般的な音楽では、音階は12個ありますが、これを自由に組み合わせて曲を作ることはあまりありません(現代音楽の12音階の曲くらい)。聴きやすい親しみやすいメロディーは、時に半音階を使用しますが普通は全音階(シャープやフラットを使用しない)で作曲されます。流れるようなメロディーは、全ての音階を上手に組み合わせ、リズムを組み合わせることにより出来上がります。一部の民謡などでは、ヨナ抜き音階といってド、レ、ミ、ソ、ラの5音階だけで作られています(スコットランド民謡の蛍の光、故郷の空、演歌の北国の春、上を向いて歩こうなどなど)。普通の人が歌う場合は、ヨナ抜き音階の方が歌いやすいと言われており、その結果民謡など広く歌い継がれるものはそのような音階になったと言われています。一般的にはヨナ抜き音階の方が曲は作りやすいとされていますが、有名な名曲(モーツアルトやチャイコフスキーなど)ではむしろ少なく、全音階を使用しているものが圧倒的に多いようです。

 スクエアダンスの曲は、カントリーウエスタンですが、やはり全音階を使用した曲が多いと思います。コーラーさんは歌がお上手ですので、全音階を使用したなめらかな曲の方が歌いやすいのではと思っています。私たちダンサーは、何の気なしに曲を聴いて踊っていますが、時には曲や歌に集中して、音階にも気をつけるとさらにスクエアダンスが楽しくなりと思います。でもそんなことしてたら、コールに集中できなくなるからダメ、という方もおられるかもしれませんね。


94.栄養のお話し
 皆さん食べ物については、好き嫌いがあると思います。もちろん大人ですから、食事会などで出された料理は黙って食べてしまうことが多いでしょう。中にはアレルギーなどで食べられない食材などもあると思います。でもそのような特殊な事情を除けば、バランス良く何でも食べた方が健康、長寿に繋がります。

食べ過ぎはもちろんよくありませんが、食べる量が少ないのも不健康です。最近はダイエットブームで、とくに若い女性は我々から見ると十分にスマートであるにもかかわらず、自分では太っていると勘違いしている人が多いようです。これはテレビの悪い影響で、女優さんやニュースキャスターのおねえさんは医学的にはほとんどが痩せすぎに分類されてしまう人たちです。若い女性が極端なダイエットに走ると、ほとんどが無月経となってしまいます。軽症であれば体重を戻せば治りますが、ひどくなると無排卵となり、将来不妊症となってしまうことも少なくありません。拒食症といわれる病気では、患者さんは人前ではきちんと食べるのですが、こっそりとトイレで吐き出してしまうことが多いようです。ですから家庭ではあまり気付かれないで、げっそりと痩せてしまってから病院に来ることになります。

 高齢者では、食が細いと体力(とくに筋力)が低下してしまい、歩けなくなってしまうことがあります。将来寝たきりになる可能性が高い状態を「フレイル」といいます。

1)体重減少が1年間で4.5 kg以上
2)著明な疲労感を感じる
3)握力の低下
4)歩く速度が遅い(10mを15秒以上かかる)
5)活動レベルの低下

の5項目の内、3つ以上当てはまればフレイルと診断されます。ひとつでもある場合は「プレフレイル」といって、将来フレイルに進行してしまう可能性があります。1)については、ガンや結核などの病気でも起こりますので、まず基礎疾患を除外することが大切です。2)も糖尿病などの代謝性疾患をお持ちの方は疲れを感じやすいかもしれません。持病をお持ちの方は主治医にご相談頂きたいのですが、そうでないのに5項目に当てはまる場合は注意が必要です。

 これらの項目に共通していることは、自分は歳をとったという思い込み、好奇心、向上心の低下です。食事に興味を失うと食が細くなり体重減少に繋がりますし、いろんなことに興味を持てなくなると活動力が低下してしまいます。スクエアダンスは知らないコールを覚え、ひねったコールでアタマを絞り、手を取り合いますので握力も鍛えられます。テンポ良くコールをかけられると、歩くスピードも上がりますので、フレイル予防には打って付けのスポーツです。ダンスの後の語り合い、食事会などで人との触れ合いを楽しみ、おいしいお酒、食事を嗜むということを継続すれば、千代田の会員の皆様はフレイル知らずになって好奇心を失うこともなく、健康を維持できると思いますよ。

95.サルコペニア
 「サルコペニア」とは、「加齢に伴って生じる骨格筋量と骨格筋力の低下」のことです。 人間は老化により、骨格筋量の進行的な低下、それも体力や機能の低下を導く大幅な低下を経験します。「 サルコペニア」とは、ギリシャ語で「筋肉」を意味する「sarx」と「喪失」を意味する「penia」を組み合わせた言葉です。年齢を重ねた有名人が昔の写真と比較してずいぶん痩せたなーと感じる人は多いと思います。ガンなどの消耗性疾患の場合でも「やせ」は見られますが、この場合はげっそりとした顔貌になることが多く、悪液質(cachexia)と呼ばれます。サルコペニアとの違いは、体力消耗が激しく、やせのスピードも劇的に早いことでしょう。

 年齢を重ねれば、誰でも筋肉量は低下します。一流のスポーツ選手でも、ある程度の年齢になれば若い頃のようにそのスポーツが出来なくなり、引退されるのは皆さんよくご存知ですね。イチロー選手は毎年科学的なトレーニングを積まれ、見た目の身体は全く変化することなくもっと活躍されると思っていましたが、今年引退されました。気力、視力の低下も引退の決め手となりますが、筋力や敏捷性の低下も大きな要因です。もちろんスポーツ選手ですから、毎日激しいトレーニングをされていますが、それでも年齢には勝てないということになります。私たち一般人は、スポーツ選手ほどではありませんが、身体は筋肉で覆われています。身体が自由に動くためには、筋肉の力が必要となります。年齢による変化は避けようがなく、筋力は徐々に低下するのはやむを得ません。しかし筋肉の量は、適度な運動と正しい食生活で低下を防ぐことは可能です。

 年齢を重ねると、どうしても食事量は少なくなってきます。胃腸も歳を取るからですが、内容を工夫すれば必要な栄養量は摂取できます。元気なお年寄りは、肉をよく食べるという話を聞いたことがあると思います。脂肪分の多すぎるロースやバラ肉は摂りすぎるとよくないですが、モモ肉やヒレなどタンパク質が多く脂肪が少ない部分は栄養学的にはタンパク質の補充として極めて有効です。日本人は魚が好きで、魚からもタンパク質は摂れるのですが、必須アミノ酸と呼ばれる身体の中では合成できないアミノ酸(タンパク質の元となります)は牛肉などの方が多く含まれているのです。

しっかりと食事を取るためにはゴロゴロしていてはダメで、適度な運動が必要です。スクエアダンスで有酸素運動をしてバランス感覚も鍛え、その後にお酒だけでなくきっちりとした栄養を補給するとサルコペニアとは無縁で健康寿命も延長できると思います。


96.笑いの科学
 人間はとても楽しいとき、嬉しいとき、満足したときなどに笑顔を見せます。笑うという動作は人間特有のようで、他の動物にはみられません。イヌやネコも、「よしよし」してあげると嬉しそうに目を細めますが、人間のような笑いにはなりません。では笑いはどのような機序で起こるのでしょうか?

 赤ちゃんが生まれて最初に笑顔がみられるのは、おっぱいを飲んで満足したときです。もちろん大人のように声を上げて笑うのではなく、ほのかににっこりとする程度です。それから徐々に家族が語りかけたり、まわりからあやされたりして、ご機嫌になると声を上げて笑うようになります(生後3〜5ヶ月くらい)。一般的に人間は嬉しいとき、満足したときに笑顔がでます。滑稽なものをみて笑うのは、もっと後で社会経験を積んでからということになります。

 笑いについてはまだよく判っていないことが多いのですが、自分の思っていることと違うことが起こったときに、驚きとともに笑いがでるようです。状況によって様々ですが、漫才などをみていて転んだりした場合は笑えますが、普通の人が歩いていて転んだときは笑えません。これは大人になると笑って良い場合とそうでないときの分別が付くからです。従って笑いの状況を見ると、その人の社会的な成熟度が判ります。

医学的にみると、笑うことによって自律神経系の頻繁な切り替えが起こるとされています。交感神経と副交感神経のバランス状態が入れ替わり、副交感神経が優位な状態になると安らぎや安心を感じ、笑いとともにストレスが解消されます。逆に怒りや恐怖を感じたときは交感神経系が優位になり、ストレスがかかるということになります。心が安らいでいるときは、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)が活性化し、ガンの予防や治療を促進させるといわれています。また笑うことによってストレスが下がり心臓を活性化させます。滅多に笑わない人はよく笑う人に比べて死亡率が2倍にのぼり、脳卒中などの心血管疾患の発症率が高いという報告もあります。

スクエアダンスでも、笑顔は欠かせません。仏頂面で踊ることは避けたいものです。でも難しいコールの連続になると、ついつい笑顔を忘れがちになります。以前、脳波を図りながらスクエアダンスをして戴いたことがあります。その結果、ベテランになるとダンス中はアルファ波(リラックスしているときに出る、良い脳波)が出ており、ビギナーさんはアルファ波がほとんど出ていないというデータが得られました。ダンスはレクリエーションですので、ストレスにならない程度に楽しく踊れるよう練習に励みたいものです。そうするとダンスにより笑顔が溢れ、アルファ波もビンビン出てますます健康になれると思います。



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