61.腰痛、膝痛
人類は四つ足から二足歩行に移行したときから、腰痛、膝痛に悩まされてきたようです。両腕(正確には手指)を使うことにより、脳が発達した結果として文明社会を築くことができたと考えられていますが、そのため、全体重を2本の足で支えなければならなくなりました。四つ足ではお腹が下を向く関係で、骨盤内にかかる圧力は軽減されますが、二脚歩行では骨盤内に内臓の重量がかかりますので、骨盤の骨が立派になって内臓の圧力を支えるようになりました。結果的には骨盤の骨の部分が大きくなり、赤ちゃんが生まれてくるときに通る骨産道が小さくなりましたので、動物のように安産というわけにはいかなくなったというわけです(そういう意味で小生のような産婦人科医が必要となったのです)。

 一方で医学の進歩により、人間は90年近く生きることができるようになりました。以前にも述べましたが、本来の人間の寿命は50歳くらいといわれています。動物の世界では、自分で食料の調達ができなくなれば(すなわち仕事ができなくなれば)、その個体の死を意味します。子作り、子育てが終われば、その個体の存在価値はないといえましょう(厳しいね)。
しかしながら現実を見れば、80歳はおろか、90歳を超えて矍鑠(かくしゃく)としておられる先輩が数多くおられます。当然ですが、お元気そうに見えても、身体のあちこちに不調を抱えておられる場合が多くなります。腰や膝もそのように考えれば納得がいくかもしれません。すなわち、50歳くらいで用済みとなる予定が、その後40年も酷使されると言うことになるわけで、そうなれば不調を訴える方々が多くなるのも当たり前といえましょう。

 それではどうすれば腰痛や膝痛から逃れることができるのでしょうか。残念ながら一種の老化現象ですから、完璧に予防する方法はありませんが、少しでも緩和する方法はあります。

1)筋力の強化:腰痛の大部分は、腰の骨の周りの筋肉が弱り、身体を支える力が低下していることが原因です。ですから、適当な運動により、腰の骨の周辺の筋肉を強化することです。クルマをできる限り利用しない、エレベーター、エスカレーターを使用しないなど、日常生活でできる方法もありますが、何と言っても定期的にきちんとした運動を続けることです。

2)加重な負荷を与えない:運動療法は有効ですが、頑張りすぎるとかえって害になります。自分の身体に無理のかからない適切な方法で、焦らないで少しずつ積み上げていくことが大切です。

3)それでも改善しないときは専門医の診察を受けましょう:最近はサプリブームで、膝痛などに聞くという
「インチキ」サプリが氾濫しています。簡単に飲んで効くサプリがあれば誰も苦労しません。ヒアルロン酸は関節がスムースに動くための大切な栄養素ですが、局所に注射するならともかく、経口摂取で効果があるという医学的証拠(エビデンスといいます)は今のところありません。

 もうおわかりだと思いますが、医学的に介入しなければならないくらいの重症例をのぞけば、腰痛、膝痛に最も有効なのは適切な無理のない定期的な運動です。スクエアダンスは適切な運動のみならず、競技性がないので無理しすぎないで楽しく運動ができます。おまけにコールに従って動かなければなりませんので、アタマも反射神経もフルに使うことになります。でも無理は禁物。どうもいつもと痛みが違う、思うように足が動かないなどといった症状があれば、ともかく整形外科の医師に診察してもらってください。


62.コールの数と反応速度
スクエアダンスのコールは、ベイシック51、メインストリーム17、プラス30、アドバンス(A1, A2)78、チャレンジ(C1)117、(C2) 125、これより上にC3A, C3B, C4 とありますから、総数は1000 くらいでしょうか。なおこれらの数字は、コーラーラボの定義集から集計しました。数え間違いがあるかもしれませんが大まかにはこれくらいの数になりそうです。

コーラーラボとは、アメリカにあるコーラーさんたちの学会のような組織で、毎年ミーティングが行われ、世界中からコーラーが集まり、そこでいろいろなダンス定義などが決められるという、スクエアダンスではもっとも権威のある団体です。西村会長はそこの常連で、常に新しい情報を集めるべく努力されています。

実際にかけられるコールはこれよりも多くなります。というのは、この数字はコールの種類を数えただけですから、たとえばレフトハンドの動きや、分数で表される動き(ドサドの半分だけ、ドサドハーフなど)は含まれません。

さらにアドバンスやチャレンジでは、コンセプト(日本語で言えば「概念」とでも言いましょうか)という考え方が入ってきます。これは、通常では4 人でやる動作(たとえばスクエアスルーは4 人で行う動作ですね)を8 人で同時に行う(オール・フォー・カップルスというコンセプトとなります)などいろいろありますが、それぞれのコンセプトにその動作が可能なすべてのコールが絡んできます(たとえば先ほどのオール・フォー・カップルスでは、ライト・アンド・レフト・スルー、スタースルーなどすべてのコールが絡みます)。ですから、レフトハンドや分数で表される動き、それにコンセプトに含まれるすべてのコールをカウントすれば、おそらくその倍近くになると思います。

コールの数が増えれば、それに反応するための時間も増加します。スクエアダンスの普及を阻んでいるひとつの要因は多すぎるコールであると考えられ、そのため日本スクエアダンス協会では「コミュニティー25」といって、25 個の代表的なコールで楽しくスクエアダンスを踊れるような工夫がなされています。初心者やこれからスクエアダンスを楽しもうという人にはこれでいいかもしれませんが、躍り込んでくるとこれではもの足らなくなるかもしれません。

言葉の数に置き換えてみましょう。一般の日常会話に必要な単語数は約1500 くらい(中学卒業レベルの英語がそれくらいです)といわれています。新聞を読んだりテレビを見たりしてそれが理解できる単語数が約4000(高卒~大学レベル)、大人の平均的日本人では約6000〜8000語くらいの日本語でコミュニケーションをしています。教養の高い人で約10000〜15000、国語学者など専門家では約20000〜30000 語と、日本語の世界でもキリがありません。でもある程度言葉を知っていれば、表現の幅が広がりますし、コミュニケーションも楽しくなります。

スクエアダンスのコールもこれと同じことが言えます。25 のコールでも、うまいコーラーならそれなりに楽しませてくれると思いますが、やはり最低でもメインストリームくらいをすいすいと踊れれば、スクエアダンスのおもしろさが倍増すると思います。コールの数が増えれば、それを思い出すための脳の機能も増えますし、それぞれのコールに反応するために大脳—小脳—脊髄—筋肉といった一連の連携も強化され、身体にも脳神経系にも好ましい影響を及ぼすものと思われます。でも楽しみ方は人それぞれ。国語学者級にチャレンジを目指すもよし、メインストリーム、プラスで楽しくコミュニケーションするもよし、皆さん自分流にスクエアダンスを楽しんで下さい。



63.袖振り合うも多生の縁
 スクエアダンスは、身体と同時にアタマを使う,健康にとても良いスポーツであることは皆さんよくご承知だと思います。でもダンス中はそれに集中し、終わったら一目散に家に帰るということばかりだと、本当は一番大切な、他の人との人間関係を築くということが損なわれることになります。ダンスが終了するのは9時と結構遅い時間ですから、毎回「チムニー」に行くことは難しいと思います。そうでなくて、ダンスの合間などに仲間といろいろと話し合うことが,精神衛生的に大切だということです。

 人間は生まれてくる時(双子は例外)と死ぬ時はひとりです。以前、生まれたばかりのサルをお母さんザルから引き離し,孤独状態にするという実験が行われました。もちろんミルクなどは与えて,ケアをするのですが、その赤ん坊ザルは,顔つきが鋭く寂しげで,精神的にも穏やかではない攻撃的な性格になってしまったということです(動物実験とはいえ残酷であるということで、最近はこのような実験は行ってはいけないというヘルシンキ宣言という規則ができあがっています)。赤ちゃんにとってご両親は,精神的にとても大きな支柱であることがよく分かります。
 一方、高齢になった場合、知り合いの数も減っていきますから、ある程度は孤独になることは仕方がないことだと思います。でもご縁があってスクエアダンスを知り、しかも日本でも有数の会員数を誇る千代田スクエアダンスクラブの会員となったわけですから、孤独を嘆く必要は全くないと思います。

 皆さんは学校の同窓会や職場でのいろいろな会合で多くのお知り合いがおられると思います。でも学校を卒業してしまいますと,同窓会の結びつきは希薄なものとなり,職場関係だと利害などが絡みやすくなりますので,気の置けない会合とはならないのではと思います。千代田の250名以上の会員さんの中には,いろいろな職業をお持ちの(経験してきた)方が数多くいらっしゃいます。しかも趣味のクラブですから、利害関係が生じることもありません。会員の皆さんどうしが、友人として対等に気兼ねなくお話しできるクラブは,そう多くはありません。ダンスの合間にうまく時間を作って、会員の皆さんとおしゃべりする、これも精神的健康増進にはきわめて有効だと思います。

64.メインストリームはダンスの基本
 先日のアニバ、皆様ご苦労様でした。昨年は3人の外人パワーの競演でしたので、今年ひとりでは見劣りするのではと思っていましたが、とんでもない! 昨年に勝るとも劣らない,素晴らしいアニバだったと思います。トム・ミラーさんのビヤ樽の底からわき出るような力強さもさることながら、日本代表の伊藤達彦さんのコール、歌もうまいし声量も負けていない、最高でした。

 皆さんよくご存じだと思いますが、伊藤さんはメインストリームこそスクエアダンスの本道であると常日頃仰っており、プラス以上のコールはされません(できるけどしない)。でもアニバではプラスもコールされましたし、本道といわれるメインストリームでは,あっと驚くコールの組合せで,皆さん堪能されたと思います。しかもベイシックだけの組合せのダンスで,皆さん結構間違えておられましたね。ではこのようなコールを、コーラーさんはどのようにして構築するのでしょうか。

 ビギナーさんの場合、まだコールを聞いて身体がスムースに反応できませんので(コールが身体に染みついていない)、一生懸命コールを聞き,それを理解して動こうとします。一方ベテランダンサーは,「ベイシックなんて簡単さ」という思い込みがありますので、コールを聞き流しながら反応してしまいます。とくにある程度踊れるようになると、コーラーの癖を読んで、「次はこれがかかるぞ」と予測した動きをするようになります(そこでそのコールがかかると、「ほらねっ、予想したとおりだったよ」と嬉しくなるものです)。

 そこでコーラーさんは、ベテランダンサーがボディーフロー(身体の動き)からみて次はきっとこのコールが出るだろうと予測しているところに,別のコールを掛けて引っかけを作るというわけです。ですから、ベテランほど引っかかりやすい(ビギナーさんはコールに忠実ですから引っかかりにくい)ということが起こります。もちろん、伊藤さんのような切れのよいコールをどんどん掛けられてしまうと,ビギナーさんは反応できないということが起こります。わかっちゃいるけどついて行けないので、結局セットは壊れるということになります。

 ではダンサーの立場ではどのように対処すればよいでしょうか。まず落ち着いてコールをよく聞くこと,思い込みでは絶対に動かないこと、ベイシック、メインストリームのコールをよく理解すること(教科書をもう一度読みましょう)など、基本をおろそかにしないというところに落ち着くのではと考えます。それでもベテランコーラーさんにかかると,いとも簡単にひねられ,間違えてしまうでしょう。でもそれが楽しいからスクエアダンスはやめられないのではないでしょうか。会長がよく「セットの6割が踊れていれば,そのコールはおもしろい(それ以上だとつまらないし、それ以下だと難しすぎる)」と仰っておられますが,正にその通りだと思います。

65.サプライズ(びっくり)の効用

 千代田の会員さんは、人生のベテランが多くいらっしゃいますので、普通のことではそれほど驚くことはないと思います。でもスクエアダンスは別。ベテランでも予期していないコールがかかると、びっくりし間違えることがあります。そこがおもしろい、ということは、皆さんサプライズ(驚き、びっくり)に期待しているのでしょうか。

 赤ちゃんは生まれたときから(正確には子宮の中にいるときから)周囲の刺激を受けて成長します。周りの景色、音、におい、手などの触覚、すべてが新しく、サプライズの連続です。赤ちゃんはこのような刺激を適度に受けることにより、脳-神経-身体全体へと発育していくことになります。赤ちゃんだけでなく、ご両親や家族の方も最近は生まれる前から超音波などで赤ちゃんの写真を見て、サプライズ!されているようです。

 このように、適度の刺激は人間の発育にはなくてはならないもので、刺激を与えなければ、人格形成などに重大な欠陥を生じるとされています。赤ちゃんには絶えず話しかけ、だっこしたりあやしたりすることが大切です。

 趣味の世界でもこれは同じで、いつも同じことしかやらないという趣味は、必ず飽きがきます。スクエアダンスでは、コールを一通り覚えた後は躍り込みに入りますが、この時にコーラーさんは本領発揮。講習では教わったこともないポジションからコールをかけたり(オーシャンウェーブからのスクエアスルーなど)、速いテンポでたたみかけるようなコールを連発したりしてきます。もちろん、ビギナーさんでは最初のうちは太刀打ちできず、アッという間に壊れてしまうこととなります。例会では、コーラーさんはもう一度(どちらかというとゆっくり)コールしてくれますので、大抵はここでうまくいきますが、これではおもしろくありません。やはり最初に一発で決める(できれば他のセットが壊れていることを望む?)のが醍醐味というものでしょう。この時、私たちの身体ではどのようなことが起こっているのでしょうか。

 耳(スイングスルー)→大脳(動作を思い出す、と同時にこの時、手からの信号をキャッチ)、 手(レフトハンドだよ)→大脳(おっと、レフトだった。スイングスルーは右からだから、間違えないように指示しなくっちゃ)→右手、左手、 耳(リーダーズ・ラン)→大脳(もう次のコールが来たぞ、えーっとリーダーズは外を向いている方だから、自分だっけ、それとも隣だっけ)→首(きょろきょろと動かす)→目(あっ、自分だった)→大脳(ランするのは自分ね、それっ、左にラン)→足(動きますね)、 耳(リバース・フラッターフィール)→大脳(えーっ、リバースだって?今は普通のポジションだっけ、それともサッシェだっけ)→手と首(誰と手を取っているか確認、首をきょろきょろ)・・・。

 結構大変なようです。もちろん、躍り込んでいるベテランダンサーは、今上に書いたような判断を一瞬のうちに、しかも間違えずにできますが、ビギナーは大変。冷や汗をかき、ベテランに誘導されて何とか追いつこうとしますが、このような複雑な動きをスピードに乗ってかけられると、大抵はセットが壊れてしまいますね。でもこの刺激、こんなところでこんなコールというサプライズがスクエアダンスをますますおもしろくしているのだと思います。人生も後半になればサプライズも減ってきますが、千代田の例会に出ていれば正にサプライズの連続。脳-神経系にとってこれほど素晴らしい若返りはないと思いますよ。

 

66.右と左
スクエアダンスでだまされやすいことの一つに、右と左があります(ライト、レフト)。普通にお話ししたり、歩いたりしているときは、右、左で迷うことは少ないと思いますが(ときどき逆になるって? そういうこともありますね)、コールで”ライト”といわれると右はお箸を持つ方と判っているのですが、つい左を向いてしまい、しかも指摘されるまで自分が正しい方向を向いていると確信していることはよくあります。お恥ずかしい限りですが、小生もよく逆を向いてしまう方です(右はどっち!! よくしかられます)。職業柄、向き合ってお話しすることが多いのですが、相手の「右」は自分の「左」となりますので(写真などでも同じですね)、説明するときに、「あなたの右に何かあります」というときには自分からみると左側の方向を指し示すことになります。ですから、つい「右」といわれたときに「左」を向いてしまうのです(なにやら言い訳みたいですね)。

 ところで左右というのはいつ頃から出てきた概念なのでしょうか。人間に限らず動物は、一般的に前に進みます。その時に前だけを注意しているのでは、つまずいたりあるいは横から来る人とぶつかったりしますから、かならず横も見ています。最初は単に「横」という概念で良かったのだと思いますが、そのうちこっちの横、あっちの横という風にいわゆる左右を意識するようになったものと思われます。その方向の名前の付け方ですが、何か使う道具に由来して名付けることが多いようです。たとえば日本語では、弓手(ゆんで):弓を持つから(矢は右手で引くので)左の意味、馬手(めて);馬の手綱を取る手は右手なので右の意味。右はものを握る(ニギる→ミギ)から来たことば、左は力がないので、引きたらす(ヒタラ→ヒダリ)から来たことば、などなど様々な語源があるようです。

 英語のライトは、まっすぐという意味もあるようですが、ここから転用されたようで、まっすぐ、正しいものは右(力も強い)、レフトは、むかしは弱い、力のないという意味で使われていたものが転用されたようです(力が弱い)。これはフランス語やドイツ語でもほぼ同じで、一般的には右は強い、正しいという意味を持ち、左は弱い、おまけといったあまりよくない意味から使われるようになったようです。中国などでも皇帝が先頭で、並ぶ順は右、左というように右に偉い人が来ていたようです(もっとも支配していた王朝によっては逆であったようです)。日本では伝統的に左の方に偉い人が来ますが(左大臣、右大臣など)、これはその当時お付き合いしていた中国の王朝(唐)の影響のようです。医学的には、ラテン語ですが、右に相当する言葉を「指し示す方向」(dextra)、左に相当する言葉を「心臓のある方向」(sinistra)という表現がありますから、むかしから世界中で効き手のある方向を右、そうでない方向を左と区別していたようです。

 スクエアダンスでは、すれ違いのとき原則右肩すれ違いで、左側通行です。スクエアダンスはアメリカで発展したダンスですので、右側優先という考え方からこうなったのでしょう(クルマは右側通行、人は左側通行)。世界の多くは右側通行です(クルマや列車、船や飛行機)。でも古代では左側通行が原則であったようです。これはほとんどの人は右利きであるということが関係しています。

 刀を右手で使う関係上、左の腰に普段は刀を差しますが、右側通行ではそれが当たってしまう、いざ剣を抜いて勝負というときに、左側通行だと右手の方向に攻め込みやすいということが関係しています。さらにむかしは馬車で移動していましたが、馭者の多くは右利きですので、鞭を振るったときに右側通行だと民家などに引っかかってしまう恐れがあるということも関係しているとされています。

 ではどうして世界の多くで右側通行なのでしょうか。これも諸説ありますが、ナポレオンが左利きであったことが大いに関係しているようです。専制君主は自分中心となるようで、自分が征服した地域は強引に右側通行にしてしまったようです。ヨーロッパではイギリスがナポレオンの統治下に入らなかったのですが、それで昔ながらの左側通行が守られたようです。他の地域ではスウェーデンもナポレオンの侵略を受けなかったので左側通行だったのですが、陸続きの関係で不便であるということで、いまから40年ほど前に右側通行に変えたようです。

 スクエアダンスでは先ほど述べましたように原則右肩すれ違い(左側通行)なのですが、クロスという概念では左肩すれ違いとなります。この考え方を判り易く説明してみます。

 普通のポジションで、レディーファーストで縦になる、という動作を考えて下さい。この時、男性の右側にいる女性は男性の前にエスコートされますが、そのまま男性は右、女性は左を向くと、あら不思議、左側の肩が並びますね。そのまま通り過ぎて正面を向いたとしましょう(男性は右、女性は左のいわゆるサッシェイポジションとなります)。この動きはクロストレイルスルーといいますが、このようにコールの名前に「クロス」という言葉が入るものでは、左肩すれ違いとなります。

 ともかく、どちらかを通るというルールができてなければ、ダンサーどうしがぶつかってしまいますので、原則右肩すれ違いと覚えておけば大丈夫だと思います。でもとっさの時にはつい間違えて、相手とぶつかることもありますから気をつけましょう。
67.コスチューム
 今年のアニバも、多くのお客様が来られ、盛会のうちに終了しました。マイクさん、田島さんの素晴らしいコールもさることながら、華やかに舞い踊るダンサーさんのコスチュームのすばらしさにも感動しました。

 コスチュームとは、単に服装という意味もあるようですが、衣装、仮装という意味合いが大きいようです。人間は動物と異なり、様々な衣装を身に纏います。着る衣装によって、その人の役割、職業などが明示されるものもあります(警察官の制服など)。また何かをするときに、その衣装を着ることにより、気持ちが切り替わってそのことに集中できるという利点もあるようです。

 スクエアダンスの世界でも同じことが言えます。いつもは普段着で例会に出ていても、月に1回のコスチュームデイや、クリスマスなどの特別な例会、あるいは他のクラブへの訪問などの時には、皆さんコスチュームを着られると思います。その時は何となくいつもと違って、あらたまった、少し身の引き締まる感じがしませんか?それでも男性のコスチュームは、普段着ているワイシャツと同じようなウエスタンシャツで、下はズボン(最近はどういう訳か、ズボンのことをパンツというようですね。パンツは小生のような年代だと、いわゆるパンツで、そんな格好で外を歩くなんて考えられませんが・・)ですから、あまり代わり映えしませんが、女性はまさに大チェンジ。アッと驚く姿に変わります。

 小生は家内がスクエアダンスを開始して2年後に、無理矢理この世界に引きずり込まれました(今では感謝していますが)。家内がスクエアダンスをはじめたとき、その奇っ怪な衣装(!)にびっくりしたものです。初めてコスチュームを纏った家内をみて、「ええ年こいて、気が狂たんとちゃうか」(あいさんは抑制が外れると関西弁になります。つまり、それくらいびっくりこいた、ということ)、と思わず叫んでしまいました。でも見慣れると何ともないもので、今ではコスチュームがないと寂しいと感じるようになりました(半分はホント)。

 女性のコスチュームには、パニエがつきものです。パニエとはフランス語で、下着の一種。18世紀にヨーロッパでドレスなどのスカートを美しい形に広がらせるため、その下に着用したのが始まりとされています。現在も形は異なるもののアンダースカートとしてウエディングドレスやワンピースを膨らませる用途で用いられています(インターネット百科事典、ウィキペディアによる)。フランス革命以後は廃れたそうですが、それまでは貴族の正装としてヨーロッパでは広く愛用されていました。スクエアダンスはアメリカで始まりましたが、ヨーロッパ文化に大きく影響されています。パニエもその名残と考えれば、ますます興味深くなります。

 コスチュームはダンスを楽しくすること以外にもいわゆる「変身願望」を満たしてくれるところがあります。男性でもいつものスーツを脱ぎ、シャツだけでなくズボンも変えて、ウェスタンブーツにテンガロンハットなど小道具を効かせれば、西部開拓時代のカウボーイに早変わり。女性のコスチュームと相まって、仮面舞踏会的に現実離れできることは、コスチュームの利点でしょう。いつもと違う自分に変身できるということは、アタマの中身も切り替えるわけですから、これもスクエアダンスが健康に結びつく大きなポイントかもしれませんね。


68.個人競技、団体競技
 スポーツは、個人で行う個人競技(ゴルフ、スケートなど。もっとも、いずれも複数人で行う団体競技もありますね)と、団体競技(野球、サッカーなど)とがあります。個人競技ではすべてが自分一人で行いますので、上手くいった場合はいいのですが、失敗した場合は誰もカバーしてくれません。すべてが自己責任のキビシイ世界で、最後まで頑張ってやり遂げるという気迫がなければ難しいスポーツといえるでしょう。でも一人で競技しているように見えるスポーツでも、コーチ、道具を調えたりする人、スポーツドクターなど、多くの人の協力によるチームプレイと言えないことはありません。オリンピックなどで世界一を目指す場合は、個人競技といえども多くの人々の協力によるところが多く、ある意味では団体競技といえなくもないでしょう。

 一方団体競技は、みんながカバーしてくれるから一人一人は適当にやっていればいいというような甘い考えでは、競技会を勝ち抜くことはできません。みんなが力を合わせることにより、一人の力の合計以上のことができるというのが団体競技の醍醐味かもしれません。野球を例に取れば、イチローや松井選手のようなスーパースターも必要ですが、彼らだけでは野球はできません。ピッチャーもキャッチャーも、守備をする他のメンバーも必要で、結果として9人で勝利を勝ち取るということになります。この場合、団体で行うチームプレイの練習はもちろん欠かせませんが、各個人もスキルを磨き上げることにより、ファインプレイが生まれ、結果的に試合にも勝利するということに結びつくこととなります。

 さてスクエアダンスはどちらに入るでしょうか。もちろん、8人で行いますから、団体競技であることは間違いありません。でも通常のダンスと異なり、コーラーの指示通りに動かなければならず(しかもコーラーさんによっては、ずいぶんとひねったコールをすることがあります)、8人のチームでダンスを続ける場合でも、個人プレーがしっかりできていなければ、なかなかうまく踊れません。野球と同じで、一人くらいうまい人がいても、他の7人が全くの初心者では、ダンスを続けることは難しくなります。千代田では3月からビギナー講習が始まっていますが、セットに余りに多くのビギナーが入りすぎますと、いくらベテランが頑張ってもセットが壊れてしまい、講習が進まなくなってしまいます。1セット8人のうち、できればビギナーさんは3人くらいが望ましいところでしょうか。

スクエアダンスはダンスレベルによってベイシック、メインストリーム、プラス、アドバンス、チャレンジと分かれていますので、上のレベルに挑戦する場合は誰でもビギナーになります。はじめて講習を受けるときの気構えは、ベイシックでもチャレンジでも同じだと思います。団体競技(といってもスクエアダンスは競技性はありませんが)だから、ベテランがリードしてくれるから、といった甘えた考え方はすっぱりと捨てて、自分一人でもコールを聞いて踊れるようにしておくことが、結果的に8人が楽しく踊れることに結びつくと思います。スクエアダンスは奥が深く、コールの数も無限にあるようですが、一つずつ覚えていけば、いつの日か必ず踊れるようになるところが良いところでもあります。自分にあったレベルで楽しく続けていきましょう。新しいことにチャレンジすることは、精神的、肉体的にも若返る元となりますよ。

69.教えること、学ぶこと
 スクエアダンスの特徴として、コールを覚えるということがあります。コールは簡単な動きから(サークルレフトなど)、複雑な動きまで(アレマンザーなど)様々ですが、きちんと覚えておかなければスクエアダンスを踊ることができません。私たちは初めてのコールを学ぶとき、通常はコーラーさんから懇切丁寧に教えていただけますが、会長がお若いときなどはコーラーもアメリカ人しかいなくて、テキストも全部英語。みんなで前もって予習をして外人コーラーのレッスンに臨んだとのことです。アメリカ人は戦後の日本にスクエアダンス(フォークダンス全般)を広めたいという思惑もあり、また生徒さんたちも熱心でしたから、さぞかし熱の入った授業であったことと思われます。何の気なしに例会に出席して(あまり予習や復習もせずに)、会長はじめコーラーの皆さんから教えていただいていますが、このようなお話を聞くとなにやら申し訳ないような気がしてきます。千代田のコーラーさんは皆さん熱心であるばかりでなく、とても教え上手だと思います。個人的なことで申し訳ありません。小生も学生を教える立場にいますが、不熱心な生徒、覚えの悪い生徒に対してはすぐにアタマに来てしまう方です。ところが会長以下、千代田のコーラーさんたちは、出来の悪いダンサーに対してもキレることなく、丁寧に何回も繰り返して教えておられます。教育者として教えられるところが大きく、また器の広さに感心してしまいます。

 人にものを教えるということは非常に難しいことだと言われています。知っていることをダラダラしゃべっても、ほとんど頭には残りません。やはり深い経験と知識に裏付けされた内容でなければ印象に残りませんし、勉強にもなりません。たとえば一般のダンサーが、簡単なコールをテキストを見てビギナーに教えることはできても、コーラーさんによる講習のようには印象に残らないのではないでしょうか。千代田のコーラーさんは、講習に入る前には何回もテキストを読み、コンピュータやコマを使って判り易いコールを組み立て、さらには応用動作として少しひねったコールも用意されているようです。われわれダンサーもコーラーさんたちの努力に応えるためには、きちんと予習や復習をして、ひとつひとつコールに伴う動きをマスターしていかなければいけないと思います。

 一般にある程度の年齢になると、人にものを教えたり、命令したりする立場となることが多いのですが、千代田スクエアダンスクラブに入会すれば皆さんビギナーとなり(ベイシックが終わってもメインストリーム、プラス、アドバンスとキリがありませんね)、コーラーさんからものを教えていただく立場になります。ある意味とても新鮮だと思いますし、脳にとってもよい刺激になると思います。でも習いっぱなしでは効果は半減。よいダンサーとなるべく努力を続けましょう。いくつになっても切磋琢磨は健康によいことだと思います。

70.スクエアダンスはなぜ飽きないか?
 初心者講習が終わり、何となくうまく踊れるようになってくると「なーんだ、いつもと同じ」、「ちょっと飽きちゃったかな」なんて考えるようになります。でもほとんどの会員の皆さんは、飽きちゃったからスクエアダンスをやめようとは考えないのではないでしょうか。
 まず何と言っても、会長さんはじめ、コーラーさんたちのがんばりが大きいと思います。千代田のコーラーさんたちは、ベイシック、メインストリームのコールでも、工夫を凝らされており、例会でもひねりの効いたコールで楽しませて(?)くれています。個人的なことですが、小生もスクエアダンスを初めて12年。少しは上のレベルも覗いてみましたが、一番楽しいと感じるのはメインストリームのよく考えられたコールです。これはS協が指導者講習会などを定期的に開催し、リーダーの皆様が努力されている結果だと思います。

 次に無限と思われるコールの数、組合せが上げられます。メインストリームがすいすい踊れるようになれば、次はプラス、アドバンス、チャレンジと、上のレベルが待ち受けています。誤解のないように申し添えますが、上のレベルのダンサーが「偉い」というわけではありません。スクエアダンスは個人の楽しみの範囲でステップアップすればよいので、自分にあった段階で楽しめればよいと思います。どんどん上のレベルにステップアップしても、そのレベルの簡単なコールが何とか踊れるというのでは、おもしろくないのではないでしょうか。スクエアダンスは動きは単純ですので、上のレベルでも基本は歩くだけで、動きのパターンがコールとして登録されています。たとえば、アドバンスに「ミックス」というコールがありますが、これは、「センター、クロスラン、アンド、ニューセンタートレイド」という動きで、メインストリームのコールに置き換え可能です(もちろん、中には複雑すぎて置き換えにくいコールもありますが)。ですから、「ミックス」とはこういう動きですよ、と教えてもらえば、ビギナーさんでも踊れるということになります。でもスクエアダンスは複雑で、この「ミックス」だけで終わるわけではありませんし、「ミックス、ワンス-アンド、ハーフ」なんてコールをかけられれば、アドバンスを通り一遍習っただけで十分に躍り込んでいないダンサーは、たちどころにパニックになるでしょう。ですから、むやみやたらに上を目指すのではなく、今のレベルを十分に楽しみ、躍り込むことが大切です。医学的にも単純な記憶の積み重ねよりも、覚えたこと、習ったことを基に応用する方が、アタマのトレーニングにもなります。

 スクエアダンスをやめられない、最後のキーは、楽しい仲間との触れ合いにあります。とくに千代田スクエアダンスクラブは、日本で1,2を争うほど(おそらく世界中でも)会員が多いクラブです。会員の皆さんは多士済々。千代田の会員にならなければ巡り会うことができなかったような方も多数居られます。ダンス中のみならず、アフターダンスの「チムニー」、クリスマス会、新年会、合宿と、千代田では楽しい行事がいっぱいあり、その中でいろいろな交流が楽しめると思います。個人的なことですが、医師という職業は結構孤独で、医療関係者以外と知り合うことはあまりありません。千代田の例会に出かけて、ダンスを楽しみ、休憩時間にいろいろお話しをするということは、小生にとってはかけがえのない大切な(息抜き?)時間だと思っています(決してラウンドをサボっている言い訳ではありませんよ)。
 いろいろなご縁で千代田スクエアダンスクラブに入会された皆様と、これからも仲良くダンスを通して交流させていただければ幸いです。


71.健康に関する話題
 私たちがスクエアダンスを楽しめるのも、健康であればこそです。そこで今回は、健康に関するトピックスをお話しいたします。

1) 風邪は万病の元

 インフルエンザのようにワクチンができても良さそうですが、風邪を引き起こすビールスは変異しやすく、すぐに別の形になってしまうため、ワクチンはできません。今のところ、対症療法(解熱剤、炎症を抑える薬など)に頼るほかはありません。若い人の場合は、2-3日でなおってしまうことが多いのですが、赤ちゃんや高齢者では、風邪をこじらせると命に関わることも少なくありません。高齢者の死因の上位を占めるものは、癌(悪性腫瘍)、心疾患、脳血管障害、に次いで、肺炎となっていますが、これは多くは風邪をこじらせたものです。たかが風邪と軽く見ないで、風邪にかからないような工夫をすることが大切です。つまり、手洗い、うがいです。2-3年前にブタ・インフルエンザが流行ったことがありました。この時、新型インフルに恐れをなし、みんな一生懸命に手洗いうがいをしましたが、この時期の風邪の発生や老人性肺炎の発生は確かに減っていました。外から帰ったら、あるいはダンスをする前など、マメに手を洗い、うがいをしましょう。手洗いは流水と石けんだけで十分ですし(消毒液は不要)、うがいも水道水だけで大丈夫です(うがい薬はなくても大丈夫)。

2) 病気は予防が第一

 成人病の多くは、急に発症するものではなく、ゆっくりとした経過をとってから発症します。たとえば脳卒中に一番関係が深いのは高血圧です。高血圧は中高年以降に多発し、それにより徐々に血管に変化を起こした結果として脳卒中が発症します。高脂血症も中高年によく起こりますが、これも将来的には血管の病変を招き、心筋梗塞などを引き起こす元となります。癌についても同様で、いきなり末期癌になることはなく、初期のうちに発見できなかった結果としてそうなることがほとんどです。皆さんは現役バリバリでお仕事をしているときは、会社などで定期的に・・康診断を受けておられたと思いますが、リタイアされてしばらくすると、会社は面倒を見てくれなくなります。その結果、ついつい健康診断から遠のくことになりますが、これは病気の予防という観点からはとても危険なことです。クルマだって年に1回の点検が法律で決められているくらいですから、人間も年に一度くらいは健康診断を受けるようにしましょう。

3) 足腰を鍛えましょう

 若い頃はイヤでも身体を動かす機会が多いものです。通勤に始まり、下っ端ですから会社でも使い走りが多く、上司から指示されてあちこち出かけたという経験は皆さんお持ちだと思います。自営業の方も、お若い頃(つまり創業期)は、何かと忙しく、結構身体を動かされていたのではないでしょうか。女性もお仕事や子育てなど、場合によっては男性以上に忙しい思いをされたのでは?ところが60歳を過ぎる頃になりますと、ほとんどの方がリタイアとなり、若い頃に比べると運動領は極端に減ります。その結果、筋力や骨が弱くなり、転びやすく、また転ぶと骨が折れやすくなってしまいます(骨粗鬆症)。寝たきりになる一番大きな要因は、脳血管障害(脳卒中など)ですが、次に多いのは転んで骨を折って動けなくなることです(大腿骨頸部骨折)。 若い人はスキーや事故で骨折しても、すぐにくっつきますが、高齢者は骨がもろく、手術で固定しても完治するのに時間がかかります。その間あまり動けない結果として、寝たきりになってしまうと言うわけです。

 ではこのようにならない予防法はあるのでしょうか。一言で言えば、バランスのよい食事と適度な定期的な運動です。食事に関しては皆様ある程度心がけておられると思いますが、野菜中心にし過ぎるとタンパク質が減りすぎる場合があります。高齢になれば肉食を控えると言うことは実は間違いで、やはり定期的な動物タンパクの補給は必要です。

 運動についてはスクエアダンスに優るものはありません。スクエアダンスが医学的によい理由は今までいろいろと書いてきましたが、まずワンチップが15分くらいであること(無理なく動けます)、競技性がないこと(競争はある程度は必要ですが、高齢者ではそれが過ぎると事故の元となります)、ダンス中におしゃべりや握手で他の人との接触ができること(人間、孤独では生きていけません。心の癒しにもなっています)、そしてある程度の早足で動かされることです。ウオーキングは身体にいいのですが、やはりキビキビと歩いた方がダラダラ歩くより足腰によいことが判っています。

 スクエアダンスでは音楽に合わせ、普段歩いているテンポよりかなり早く動きますし、コールを間違えればさらに運動量が増えますから(この時、アタマの方も猛回転します)、健康にいいこと間違いなしです。でも慌てすぎにはご用心。転んでケガをしては何もなりません。ビギナーコースが始まっていますが、ベテランさんは強引に引っ張ったり、押したりしないように気を付けましょう。趣味の世界で事故を起こすのは避けたいものですね。

72.放射能と健康
 東日本大震災から、早くも約半年。現地では徐々に復興の兆しが見えてきていますが、皆さん気になるのは放射能の影響だと思います。そこで今回はスクエアダンスとは関係ありませんが、放射線の健康に及ぼす影響についてまとめてみました。

1)放射線の種類と特性

 難しいことは省略しますが(ホントはあまりよく判っていない??)、大きく分けるとアルファ、ベータ、ガンマ線の3種類があります。それ以外にも中性子線、電子線、X線などがあり、光も光子線という放射線の仲間になります。いまマスコミに取り上げられている放射線は。前の3種類ですのでそれぞれの特性を簡単に説明します。
 インターネットの百科事典、ウイキペディアより:放射線の透過能力:アルファ線は紙1枚程度で遮蔽できる。ベータ線は厚さ数mmのアルミニウム板で防ぐことができる。ガンマ線は透過力が強く、コンクリートであれば50cm、鉛であっても10cmの厚みが必要になる。中性子線は最も透過力が強く、水やコンクリートの厚い壁に含まれる水素原子によってはじめて遮断できる。
 問題になるのはガンマ線、中性子線ということになりますが、線源(放射線を出す物質)からある程度離れてしまえば、健康には全く問題ありません。事故直後はかなりの量の放射線が飛散しましたが、幸いなことに風に乗って大部分は太平洋に流れていきました。現在は小康状態で、原子炉が安定している限りは大丈夫でしょう。


2)半減期と放射性物質

 原発で使われる材料は、ウラニウム(ウラン)です。235とか238とかの番号がついていますが、ともかくこの物質が核分裂をすることによりエネルギーを出し、その時に発生する熱を利用して発電するのが原子力発電です。ウラニウムは核分裂を起こす過程でいろいろな物質に変化しますが、プルトニウムといわれる放射性物質もそのひとつです。今回事故を起こして、放射性ヨード、セシウムなどいろんな名称が出てきましたが、これらはすべてウラニウムから発生したものです。放射される線の種類は、ほとんどがベータ線です。ですから事故の時に、現場近くの人たちは自宅待機が指示されました(家の中までは入ってこない)。地面の上にも放射性物質は降り注いでいますが、奥の方にはしみこまないので、表面を削るだけで大丈夫です。そこで校庭や田畑で土を除去する作業が行われました。

 放射性物質は永久に放射線を出すわけではありません。放射線を出しながら、安定した物質に変化していきますので、たとえばウラニウムはウラン→トリウム→ラジウム→ラドン→ポロニウム→鉛というように変化し、最終的には鉛で落ち着きます。ただしこの過程には、何百億年という、気の遠くなるような時間がかかります。これはウラン238という物質の放射線量が半分になるのに、およそ45億年かかるからです。トリウム以下はそれほど時間はかかりませんが、それでも物質によっては数10万年かかるようです。

 現在新聞などでよく見る放射線物質の半減期は、ヨード131:約8日、セシウム137:約30年、プルトニウム239:約2万4千年などでしょうか。この期間は、放射性物質が半分になる期間ですので、すべてがなくなるのは、およそ7-8倍の期間がかかることになります。ですからヨードはともかく、セシウムやプルトニウム、ウラニウムなどとは、これからも付き合っていかなければなりません。


3)健康に及ぼす放射線量

 シーベルト、ベクレルなどいろんな単位が出てきますので、まずこれらについて。ベクレル:放射線の量を示す(放射性物質から出た量)、グレイ:吸収線量の単位(放射線を受けた物質の線量、距離が離れていれば下がることになります)、シーベルト:被曝を受けた人体の影響を表す単位。人体に対する影響を見るときによく出てくる単位はグレイとシーベルトですので、この単位でまとめておきます(係数や放射線の種類によって多少変わりますが、おおむね1グレイ=1シーベルトです)。

 放射線の人体に及ぼす影響についてですが、大量被曝についての報告は数多くありますが、少量被曝についての詳しい報告はほとんどありません。今回の事故は、残念ですがチェルノブイリと並んで、少量の放射線が人体に及ぼす影響について初めて明らかになる機会となりそうです。

 大量被曝による影響ですが(単位はすべてミリシーベルトです)、7000 :死亡、1000:吐き気、嘔吐、白血球減少となり、1回あたり1000すなわち1シーベルト以上を浴びた場合は、深刻な影響が出ることになります。微量放射線量では、放射線作業従事者の年間被曝許容量:50、CTスキャン:7、自然に浴びる放射線量:2.4、国際線飛行機:0.2などとなっており、年間50を越えないというのがひとつの目安です。でもこれには多くの疑問があるようで、ともかく微量の放射線を長時間浴び続けたというデータがないので、50ミリシーベルトという根拠もないのが実情です。

 広島、長崎の生存者の白血病、及び固形ガンの死亡データを分析した論文によれば、100ミリシーベルト以下の急性被曝はガン死亡を増加させている証拠がなく、放射線由来の晩発疾病(ガンや白血病など)の増加が確認されているのは200ミリシーベルト以上で、これ以上であれば線量に比例して疾病致死率が増大することが、広島・長崎の被爆者追跡調査で確認されています。累積被曝については、ガンに結びつく放射線損傷の積算時間は2日くらいと推定され、DNA修復機能の働きで、たちまち回復されてしまうので、100ミリシーベルト以下なら損傷痕跡が残ることはないと報告されています。従って注意すべき放射線量として、50ではなく200ミリシーベルト以下の方が説得力があるようです。

 では放射線を浴びるとどういう変化が身体に起こるのでしょうか。大量被曝では、DNAを構成するタンパクに影響を及ぼし、体中の組織が再生不良となって死んでしまいます。中等量でも、DNA合成が活発なところ(骨髄、卵巣、睾丸など)が影響を受け、白血病になったり、子供が作れなくなったりします。微量では、もちろんDNAは影響されますが、それほど大きなものでなければ、人体の持つ損傷を修復するという作用(かすり傷などは自然に治ります)により、元に戻ります。この時、微量の放射線の影響は、DNA修復作用を刺激する結果、修復能が高まってよりよい効果を出すことも判っています(ラドン温泉などはこの効果を狙ったものです)。

  私たちの身体は、大部分は常に新しい組織に置き換わっており、DNAにより新陳代謝が行われています。この時、たまには遺伝子の転写に失敗して、たとえばがん細胞の元になるような細胞も生まれていますが、他の免疫機構などの監視作用により、そのような細胞は直ちに除去され、修復されると考えられています。微量の放射線は、いわば一種の予防注射のように作用し、この作用を増強すると考えられています(ホルミシス効果といいます)。

 福島では今年の夏、小学生に長袖で登校させ、学校では校庭に出さずに過ごさせていたようですが、その方がストレスが大きくなり、かえって健康には良くなかったのではないでしょうか。校庭に出るのは、せいぜい2-3時間ですから、それを元に計算すれば、放射線量もうんと低くなります。

 食品については、1年間の危険放射線量は5ミリシーベルトとされていますが、先日問題になった牛肉でも、1年間で670キロ、そればかり食べてやっとその数値に達するといわれおり、あまり神経質になることはありません。

 産婦人科領域でも、胎児に対する放射線の効果はある程度研究されていますが、大量の放射線を浴びた場合は、奇形を起こすのではなく、流産するということが判っています。現在の放射線量は、ニュースなどでもお判りの通りあまり高値ではなく、食品にもほとんど含まれていないと思われますので、妊産婦や赤ちゃんのいらっしゃる会員さんも、あまり神経質になる必要はないでしょう。


4)まとめ

 私たちの年代は、子供の時にアメリカ、ソ連の核実験が行われ、それ以後も中国などの核実験で、いまとは比較にならないくらいの放射線を浴びて育ちました(今の千倍くらい)。それでもここ50年くらいで世界中に奇形児が多く生まれたという報告はありませんし、わが国は世界一の長寿国となっています。ですから今の放射線量に一喜一憂することなく、また風評被害に踊らされることなく(スクエアダンスはしっかり踊りましょう)、お互いできることで助け合って、乗り切っていきましょう。

参考図:
現在の放射線量は、福島原発正門付近でも1ミリベクレル以下で、東京周辺ではその1万分の1程度です。





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